答え

  1. リズム
    正常の幅の QRS 波が先行する P 波を伴ってほぼ規則正しく打っています。最初の 3 拍目までの P 波は II、III、aVF 誘導で陰性で、心房の興奮が右の下の方から出ている上室性異所性調律と考えられます。4~5 拍目の P 波は I、II、aVF 誘導で陽性になっており、この部分から正常洞調律に移行していると考えられます。
    このように、一連の記録で心房の自動能の起源が入れ替わるようなリズムを移動調律( Wondering pacemaker )と呼びます。心房の異所性自動能の速さが洞結節の自動能の速さと近接していて、その時々で速い方の自動能が入れ替わりで表に出てくるため、このような波形になってしまうのです。心拍数は約 66/分前後くらい。
  2. P
    II 誘導の 4~5 拍目の陽性の(洞調律の) P 波は幅が 2 目盛( 0.08 秒)強、高さが 2 目盛( 0.2mV )ですから、左房負荷や右房負荷はありません。
  3. PQ
    PQ 間隔は 4 目盛半( 0.16秒 )くらいで、房室伝導は正常。
  4. QRS
    QRS 波は幅が約 2 目盛( 0.08 秒)で正常範囲内、aVR 誘導以外では Q 波を認めません。胸部誘導で R 波は V1~V4 にかけて徐々に高くなっていて、,逆に S 波は V3~V6 へと進むにつれて徐々に浅くなっています。V1 の S 波の深さと V5 の R 波の高さの和( SV1+RV5 )は 6+17=23mm( 2.3mV )ですから、左室肥大はありません。
  5. Axis
    肢誘導で R 波と S 波の大きさの差が最も少ないのは aVF 誘導ですから、おおよその電気軸は ±0 度。
  6. ST-T
    明らかな ST-T 異常は認めません。
  7. QT
    QT 時間の延長もなさそうです。

ということで、今回の心電図の診断は 移動調律( Wondering pacemaker )ということになります。
 
移動調律は時々見かける心電図異常で、今回の心電図のように心拍数が正常範囲であれば、臨床的に問題となることはほとんどありません。安静時には下の心電図のように正常洞調律と上室性異所性調律とが交互に入れ替わる状態が続きますが、ひとたび洞結節の自動能が亢進して異所性自動能より速くなると、すべてが正常洞調律になってしまいます。