答え

  1. リズム
    幅の狭い QRS 波がほぼ規則正しく速く打っています。QRS 波の手前にある P 波らしい波形は II、III、aVF で陰性で、心拍数は約 160/ 分。II、III、aVF をよく見ると QRS 波の直後にも、先の P 波とよく似た波形が記録されています。これらの波形が心房の興奮によるものだとすると、心房は約 320/ 分の頻度で規則正しく興奮していることになり、この波形はそれが 2 回に 1 回の割で心室に伝わっている状態であると説明することができます。心房が 250/ 分以上の速さで規則正しく興奮している状態のことを心房粗動( Atrial Flutter:AFL )と呼びますから、この心電図は心房粗動の 2:1 伝導と診断することができます。
  2. P
    心房粗動では、P 波に相当する心房の興奮を表す波形を、Atrial Flutter の頭文字をとって F 波と呼びます。心房粗動の多くはこの心電図のように II、III、 aVF で陰性の F 波を呈しており、このタイプのものは、(心房の興奮が右心房内の三尖弁輪を反時計回りに旋回している)通常型心房粗動と呼ばれます。
    心房の興奮が正常とは異なりますから、左房負荷や右房負荷の診断はできません。
  3. PQ
    心房の興奮頻度が速く( 320/ 分)房室伝導の限界を超えていますから 2 : 1 房室ブロックの状態になっています。心房から心室へは 160/ 分の頻度で伝導しており、しかも伝導している部分の PQ ( FQ )時間は約 4 目盛( 0.16 秒)くらいですから、恐らく房室伝導は正常と考えられます。
  4. QRS
    QRS 波は幅が約 2 目盛( 0.08 秒)。aVR 誘導以外では、III と aVF の R 波が非常に小さく QS 型に近い波形となっていますが、異常 Q 波とは言えません。胸部誘導で R 波は V1 ~ V3 にかけて徐々に高くなっていて、S 波は V3 ~ V6 にかけて浅くなっています。V1 の S 波の深さと V5 の R 波の高さの和( SV1 + RV5 )は 13 + 12 = 25 ( 2.5mV )くらいですから、左室肥大はありません。
  5. Axis
    肢誘導の QRS 波で、上向きと下向きの成分の大きさの差が最も少ない誘導は aVF ですから、おおよその電気軸は± 0 度。
  6. ST-T
    明らかな ST-T の異常はなさそうです。
  7. QT
    QT の延長や短縮もなさそうです。

ということで、今回の心電図は心房粗動の 2:1 伝導 という診断になります。

心房粗動の心電図の診断は、F 波に気づくことさえできれば難しくありません。今回の心電図のように 2 : 1 伝導で心拍数の速い状態が続いている場合は、心不全を来す事がありますから、房室伝導を抑える薬剤を用いて心拍数を遅くしてやらなければなりません。そのためにも、パッと見てすぐ診断できるようにしておきたいものです。
この症例では、ベラパミルの静脈内投与で房室伝導を抑えることにより、下の心電図のように 2 : 1 ~ 3 : 1 伝導の状態に変化しました。この波形になると心房粗動の診断は簡単ですね。