答え

  1. リズム
    幅の狭い QRS 波が、約150/分の速さで規則正しく打っています。P 波はハッキリしません。心拍数が 100/ 分以上ありますから何らかの頻拍です。QRS 波の幅が狭く正常範囲内(<0.10 秒)なので心室の興奮は正常。この頻拍の原因は心室よりも上にあると考えられますから上室性頻拍と診断します。
    洞性頻脈の場合には大抵 P 波がハッキリしていますが、上室性頻拍ではほとんどの場合 P 波がハッキリしていません。ですからこの心電図のように、幅の狭い QRS 波の規則正しい頻拍( narrow QRS tachycardia )で P 波がハッキリしない波形をみた場合には、上室性頻拍と診断してほぼ間違いありません。
  2. P
    P 波はハッキリしませんが、よく見ると各誘導の QRS 波の 1~2 目盛り後ろあたりにノッチ状の波形がありますから、これが P 波かもしれません。
  3. PQ
    P 波がハッキリしませんから PQ 時間は読めません。
  4. QRS
    QRS 波は、幅が 2 目盛( 0.08 秒)あまりで正常範囲内。aVR 誘導以外では II、III、aVF でごく小さな Q 波を認める程度で、明らかな異常 Q 波はありません。胸部誘導で R 波は V1→V3 の順に高くなっていて、S 波は V4→V6 の順に浅くなっています。V1 の S 波の深さと V5 の R 波の高さの和( SV1+RV5 )は 8+17=25( 2.5mV )ですから、左室肥大はありません。
  5. Axis
    肢誘導の QRS 波で、上向きと下向きの成分の大きさの差が最も少ない波形は I 誘導で、aVF の QRS が上向きですから、おおよその電気軸は +90 度。
  6. ST-T
    I と V5、V6 誘導で ST が少し低下しているようです。恐らく頻拍によってごく軽度の虚血が起こっているものと考えられます。
  7. QT
    明らかな QT 時間の延長はなさそうです。

ということで、今回の心電図は上室性頻拍( Supraventricular tachycardia : SVT )という診断になります。

今回の心電図のように、幅の狭い QRS 波の規則正しい頻拍( narrow QRS tachycardia )で P 波がハッキリしていない場合には、上室性頻拍と診断してほぼ間違いありません。
ちなみに、心電図や不整脈を仕事にしている人は、この心電図の QRS 波の 1~2 目盛り後ろあたりにあるノッチ状の波形を P 波と考えて、この上室性頻拍が WPW 症候群による房室回帰性頻拍( AV reentrant tachycardia : AVRT )というメカニズムで起こっているものと診断します。P波らしい波形が出現しているタイミングから、正常の房室伝導を降りていった心室興奮が、副伝導路を通って心房に戻ること( reentry )で心房を再興奮させていると考えるのです。