答え

  1. リズム
    ほぼ正常の幅の QRS 波が、先行する P 波を伴って規則正しく打っています。P 波は II と aVF 誘導では陽性ですが、I と aVL 誘導で陰性になっていますから、心房の興奮は左から右へ向かっていると考えられます。正常の洞結節からの興奮とは違うようです。心拍数は 80/分くらいでしょうか。
  2. P
    II 誘導で P 波の幅は 2 目盛( 0.08 秒)強、高さは約 1 目盛半( 0.15mV )で、いずれも正常範囲内。
  3. PQ
    PQ 間隔は 4 目盛半( 0.18 秒)ですから、房室伝導は正常。
  4. QRS
    QRS 波は幅が約 2 目盛( 0.08 秒)。I 誘導で Q 波を認めますから異常 Q 波としたいところですが、aVR の QRS が R 波から始まっていて Q 波がないのが気になります。これらの所見と I、aVL の陰性 P 波の所見をあわせると、電極の左右つけ間違いの可能性を念頭に置かなければなりません。しかし、胸部誘導の R 波は、V1→V5 の順にどんどん低くなって行き、V5、V6 にはほとんど R 波がありません。また、QRS の振幅が左側胸部誘導へ行くにつれてどんどん小さくなっていますから、心臓が体の右側にある右胸心であるということがわかります。右胸心では心臓が右側にあるため、四肢誘導の波形は左右が裏返ってしまいます( I、aVL と aVR 誘導の波形は ± が逆になり、II 誘導と III 誘導の波形は入れ替わってしまいます)。また左胸部に心臓がないため、左側胸部誘導の波形では R 波がほとんどなくなってしまいます。正しい波形を記録するには、前胸壁上で通常とは左右対称の位置に電極を装着しなければなりません(下の心電図参照)。
  5. Axis
    肢誘導で R 波と S 波の大きさの差が最も少ないのは I 誘導と aVR 誘導ですから、おおよその電気軸は 90 度と 120 度の間で +105 度。本来なら右軸偏位とするところですが、右胸心の場合にはとりません。
  6. ST-T
    明らかな ST 異常はなさそうです。I と aVL の T 波が逆転していますが、右胸心の心電図ではこれらの誘導の ± が逆になっていますから、T 波の異常もないと考えてよさそうです。
  7. QT
    明らかな QT 時間の延長もなさそうです。

ということで、今回の心電図の診断は右胸心です。

右胸心の心電図の診断は、初めて見た人には難しいかもしれません。しかし、特徴的所見がいくつかありますから、一度見ればすぐわかるようになります。この機会に第 75 回の心電図ももう一度見直してみましょう。