答え
- リズム
幅の狭い QRS 波が先行する P 波を伴ってほぼ規則正しく打っています。P 波は I、II、aVF で陽性ですから正常洞調律。心拍数は 60/分あまり。 - P
II 誘導の P 波は幅が 2 目盛( 0.08 秒)あまり、高さは約 1 目盛半( 0.15mV )で、いずれも正常範囲内ですから、左房負荷や右房負荷はありません。 - PQ
PQ 時間は約 4 目盛半( 0.18 秒)ですから、房室伝導は正常。 - QRS
QRS 波は幅が 2 目盛( 0.08 秒)あまりで正常範囲内。V1 と V2 が QS 型になっており、V3 も幅の広い大きな Q 波で始まっています。また、よく見ると V4 や aVL の Q 波も幅が 1 目盛以上あります。本来 Q 波がないはずの右側胸部誘導( V1 ~ V3 )で Q 波を認めた場合や、正常でも小さな Q 波がある誘導で Q 波の幅が広くなっている( 0.03 秒以上)場合には、その Q 波を「異常 Q 波」と呼び、貫壁性の心筋梗塞の存在を考えなければなりません。今回の心電図では V1 ~ V4 の異常 Q 波から前壁中隔領域の心筋梗塞と診断し、aVL の小さな Q 波から、梗塞が側壁に及んでいるかもしれないと考えます。
胸部誘導の R 波は V1 ~ V2 には認めず V3 ~ V4 の順に高くなっていて、S 波は V4 ~ V6 にかけて浅くなっています。V1 の S 波の深さと V5 の R 波の高さの和 ( SV1 + RV5 )は 13 + 12 = 25 ( 2.5mV )くらいですから、明らかな左室肥大はなさそうです。 - Axis
肢誘導の QRS 波で、上向きと下向きの成分の大きさの差が最も少ないのは aVL 誘導ですから、おおよその電気軸は+60 度。 - ST-T
明らかな ST の異常はありませんが、T 波は I と aVL および V3、V4 で陰性になっています。これらの変化は心筋梗塞に伴うもので、異常 Q 波を伴っていない I 誘導の陰性 T 波は、この領域に心内膜下梗塞(非貫壁性梗塞)がおよんでいる事を意味します。 - QT
QT の延長や短縮はなさそうです。
ということで、今回の心電図は 前壁中隔心筋梗塞 という診断になります。
今回の心電図では、心筋梗塞の診断自体はそれほど難しくなかったと思いますが、異常 Q 波の領域は正しく読めましたか?