答え

  1. リズム
    幅の広い QRS 波が不規則に速く打っています。QRS 波が早めに割り込んできたり抜け落ちたりしているというのではなく、全く不規則に打っています。QRS 波の手前にはハッキリした P 波はなさそうです。このように、RR 間隔が全く不規則(絶対不整)で P 波が判然としない心電図を見た場合には、その段階で心房細動と診断してまず間違いありません。10 秒間の記録で QRS が 25 拍ありますから、心拍数は約 150/ 分ほど。
    心房細動は心房が無秩序に興奮(痙攣)している状態で、その興奮頻度は 300 回/ 分以上になるといわれています。この興奮頻度は房室結節が伝える限界を超えており、心室へは 2 ~ 3 回に 1 回程度に間引かれて伝わるので、心室の心拍( QRS )は不規則になってしまいます。心房の収縮がないため、頻拍時には心室が空打ちの状態となって心不全をきたすことがあります。そのため、この心電図のように心拍数が 100/ 分以上の状態が続いている場合には、注意を喚起する意味で「頻拍性の心房細動」と呼び、ただの心房細動と区別します。
  2. P
    ハッキリした P 波がありませんから所見は読めません。
  3. PQ
    P 波がないので読めません。
  4. QRS
    QRS 波は幅が 3 目盛( 0.12 秒)あまりで、正常上限の 0.10 秒より長くなっており、心室の興奮が異常(正常の刺激伝導系を逸脱した興奮)であると考えられます。そこで V1 の QRS 波をみると、多くが small R deep S パターンを呈しており、幅の広い S 波のために QRS 幅が広くなっているようです。この S 波は V1 の電極から離れて行く興奮を表していで、左心室のゆっくりした興奮と考えられますから、完全左脚ブロックの波形であると診断できます。正常なら心室中隔の興奮によってできるはずの左側胸部誘導( V5 ~ V6 )の Q 波がなく、また右側胸部誘導の R 波もほとんどありません。
    心室の興奮が正常(正常の刺激伝導系を介したもの)ではないため、この心電図から左室肥大の有無は読めません。
  5. Axis
    肢誘導の QRS 波で、上向きと下向きの成分の大きさの差が最も少ないのは aVF 誘導ですから、おおよその電気軸は ±0 度。
    左脚ブロックの心電図における電気軸については、病的意義を持たないため読んでも無駄だという意見もあります。しかし、左脚ブロックは他に読める所見が少ない心電図ですから、読んで記録を残しておくことで、後に心臓に新たな問題が起こったかどうかの判断が必要になった際に、電気軸の変化が役に立つ場合があります。

ということで、今回の心電図は 頻拍性心房細動 + 完全左脚ブロック という診断になります。

今回の波形をパッと見て、幅の広い QRS 波が速く打っていることから心室頻拍と間違えた方がおられるかもしれません。心室頻拍であれば、QRS 波が規則正しく打っているはずで、この心電図のように不規則になることはありません。
「 RR 間隔が絶対不整で P 波がハッキリしない心電図を見たら心房細動!」ということをお忘れなく。