答え

  1. リズム
    幅の狭い QRS 波が先行する P 波を伴って規則正しく打っています。P 波は I、II、aVF で陽性ですから正常の洞結節からの調律と考えられます。心拍数は 75/分前後。
  2. P
    II 誘導の P 波は幅が 2 目盛り半(0.10秒)あまりとやや広めですが、V1 の P 波には明らかな陰性成分がありませんから左房負荷とはとりません。II 誘導の P 波の高さは約 1 目盛り半(0.15mV)で正常範囲内ですから右房負荷もありません。
  3. PQ
    PQ 時間は約 5 目盛( 0.20 秒)ですから、房室伝導は正常範囲内。
  4. QRS
    QRS 波は、幅が 2 目盛( 0.08 秒)あまりで正常範囲内。aVR 誘導以外では III に小さな Q 波を認めます。III 誘導では正常でも小さな Q 波を認める事がありますが、この心電図の Q 波は幅が約 1 目盛と広く R 波に比べて深いので異常 Q 波と考えられ、この領域の貫壁性心筋梗塞を疑わなければなりません。III 誘導 はII、aVF とともに下壁の変化を反映する誘導で、これら3つの誘導はセットで変化することが多いのですが、今回の心電図では II と aVF には Q 波を認めませんから、この所見だけでは下壁の貫壁性梗塞と断定することはできません。
    胸部誘導で R 波は V1→V3 の順に高くなっていて、S 波は V4→V6 の順に浅くなっています。V1 の S 波の深さと V5 の R 波の高さの和( SV1+RV5 )は 16+10=26( 2.6mV )ですから、左室肥大はありません。
    四肢誘導の QRS 波の振幅がいずれも 5mm( 0.5mV )未満と小さくなっていますから低電位差の所見として拾います。もし胸部誘導も低電位差( V1~V6 すべてで <10mm )になっていれば心嚢水貯留などを疑わなければなりませんが、今回は四肢誘導だけなので病的意義はありません。
  5. Axis
    肢誘導の QRS 波で、上向きと下向きの成分の大きさの差が最も少ない波形は II 誘導で aVF の QRS が下向きですから、おおよその電気軸は-30度です。
  6. ST-T
    II、III、aVF と V5、V6 誘導で ST が少し上昇しているようです。II、III、aVF がセットで同じ変化をしていますから、下壁の貫壁性急性虚血(急性心筋梗塞)を疑わなければなりません。同じ所見が V5、V6 にもみられることから、梗塞領域が左後方へも広がっているものと考えられます。また V1~V3 誘導では ST が低下していますが、これは reciprocal change(対側性変化)といって、II、III、aVF と V5、V6 の ST 上昇が反対側( V1~V3 側)からみた所見として反映されているものと考えられます。
  7. QT
    明らかな QT 時間の延長はなさそうです。

ということで、今回の心電図は急性心筋梗塞(下壁)+低電位差(四肢)という診断になります。

II、III、aVFとV5、V6 の ST 上昇に気が付きましたか?
これらの ST 上昇はそれほど顕著ではないため見落としそう(あるいは早期再分極で片づけそう)ですが、V1~V3 の ST 低下は明らかに不自然で、これが reciprocal change である事に気づけば、ST 上昇が貫壁性急性虚血(急性心筋梗塞)によるものであると診断可能です。そういう目で QRS 波を見直すと、III 誘導の Q 波はやはり貫壁性心筋梗塞によるもので、梗塞が徐々に出来上がってきているものと考えられます。このまま治療を開始せずに放っておくと、恐らく aVF や II 誘導にも順に異常 Q 波が現れてくることでしょう。