答え

  1. リズム
    正常の幅のQRS波が先行するP波を伴って規則正しく打っています。P波はI、II、aVF誘導で陽性ですから正常洞調律、心拍数は100/分弱です。

  2. II 誘導のP波は、幅が2目盛り半(0.10秒)弱、高さが1目盛り(0.1mV)強で、左房負荷や右房負荷はありません。
  3. PQ
    PQ間隔は約5目盛り(0.20秒)で、房室伝導は正常範囲内。
  4. QRS
    QRS波は幅が約2目盛(0.08秒)と正常範囲内。V1~V3誘導でQS型になっていて、V4のR波もほとんどありません。このように本来Q波がないはずの右側胸部誘導でQ波を認めた場合には「異常Q波」と判断し、貫壁性の心筋梗塞の存在を疑わねばなりません。
    この心電図ではV1~V3(V4)に異常Q波を認めることから前壁中隔の心筋梗塞と診断します。V5のR波の高さは6mm(0.6mV)、V1のS波の深さとV5のR波の高さの和(SV1+RV5)は7+6=13mm(1.3mV)、aVLのR波の高さは10mm(1mV)弱ですから、左室肥大はなさそうです。
  5. Axis
    肢誘導でR波とS波の大きさの差が最も少ないのはIIとaVR誘導ですから、おおよそその電気軸は-45度。極端な左軸偏位ですから、左脚前枝ブロックがあると診断します。
  6. ST-T
    II、III、aVFとV5、V6誘導でSTがほぼ水平に低下しています。このようにST部分が水平に低下している所見は心筋の虚血を意味し、この心電図では、下壁から側壁の一部にかけての部分で今まさに虚血が起こっていると考えなければなりません。実はこの心電図の左上に殴り書きで「直後」と書いてあるのは運動負荷直後の記録という意味で、次にお示しする負荷前の記録(下図)と比較すると危険な状態であることがハッキリ判ります。このようなST変化を負荷(発作)前後に認めることができれば、狭心症と確定診断することができるのです。
    また、この心電図では、I、aVL誘導のT波がわずかに陰性化しており、側壁にも非貫壁性(心内膜下)の心筋梗塞があると診断しなければなりません。

7.QT
明らかなQT時間の延長はなさそうです。

ということで今回の波形は 心筋梗塞 + 心筋虚血(心筋梗塞後狭心症)+ 左脚前枝ブロック の心電図という診断になります。異常Q波が貫壁性の梗塞、陰性T波が非貫壁性の梗塞、STの水平性低下が心筋虚血を意味するという事さえ知っていれば難しくはありません。それにしても「前壁中隔の貫壁性梗塞+側壁の非貫壁性梗塞+下壁~側壁の虚血」があるとなると、健常な心筋がほとんどなさそうですから一大事ですよね。