答え

  1. リズム
    正常の幅の QRS 波がほぼ規則正しく打っています。QRS 波と P 波の位置は 1 拍ごとにずれていっており、P 波の後ろに QRS 波が出ていない所もあるようです。P 波は I、II、aVF で陽性ですから心房の興奮は正常の洞結節からでているものと考えられます。よく見ると P 波は QRS とは無関係に 67/ 分前後( 63~71/ 分)の速さでほぼ規則正しく出ているようです。QRS 波の心拍数は極端に遅く約 35/ 分くらい。
    心房と心室が互いに関係なくそれぞれ独自の自動能でほぼ規則正しく動いていて、心房が心室よりも速く打っている事から、この段階で完全房室ブロックと診断します。
  2. P
    II 誘導で P 波の幅は 2 目盛( 0.08 秒)余りで、左房負荷はありません。II 誘導の P 波の高さは約 3 目盛半( 0.35mV )と高くなっていますから、右房負荷と診断します。
  3. PQ
    QRS 波に先行する P 波が一定の場所にないため PQ 間隔はまちまちになっています。これは完全房室ブロックのため、心房( P )と心室( QRS )が別々の自動能で動いているからです。
  4. QRS
    QRS 波は幅が約 2 目盛( 0.08 秒)。I、II、III、 aVF、V5~V6 誘導で小さな Q 波を認めますが、これは異常 Q 波ではありません。胸部誘導で R 波は V1~V3 にかけて徐々に高くなっていて、S 波は V3→V4 と浅くなり V5~6 では無くなっています。V1 の S 波の深さと V5 の R 波の高さの和( SV1+RV5 )は 12+21=33( 3.3mV )ですから、左室肥大はありません。
  5. Axis
    肢誘導で QRS 波の上向きと下向きの成分の大きさの差が最も少ないのは aVL と I 誘導ですから、おおよその電気軸は+75 度。I 誘導よりも aVL 誘導の方がより差が少ないですから 70 度か 65 度くらいと読んでもいいかもしれません。
  6. ST-T
    明らかな ST 低下や T 波の逆転はなさそうです。
  7. QT
    QT 時間は約 12 目盛半( 0.5 秒)と少し長くなっていますが、Bazett の式( QTc = QT時間 ÷ √RR 時間)を用いて心拍数で補正すると QTc = 0.5÷√1.7 = 0.38 となりますから、延長は全く無いという判断になります。

    ということで、今回の心電図は 完全房室ブロック + 右房負荷 という診断になります。

    正常幅の QRS 波で完全房室ブロックになっている心電図は、パッと見正常と見間違える事があります。しかし、基本に忠実に P 波と QRS 波を読んでいれば、決して読み落とす事はありません。また、房室ブロックに気をとられていると、右房負荷の所見を落としてしまうこともありますから注意が必要です。