答え

  1. リズム
    正常の幅のQRS波が、先行するP波を伴って規則正しく打っています。 P波はI、II、aVFで陽性ですから正常洞調律と考えられます。心拍数は86/分。

  2. II 誘導でP波の幅は2目盛半(0.10秒)あまりで、少し幅が広くなっています。高さは約1目盛(0.1mV)で正常範囲です。第9回の解説でも説明しましたが、II誘導でP波の幅が広くなっている場合には左房負荷を疑い、V1誘導のP波の形をチェックします。この心電図V1のP波を見ると、±の二相性を呈しており、P波の後半にハッキリした陰性の部分があるのがわかります。心電図ではこの所見がある事で左房負荷と診断します。
  3. PQ
    PQ間隔は5目盛(0.20秒)くらいですから房室伝導は正常。
  4. QRS
    QRS波は幅が約2目盛(0.08秒)で正常範囲。I、II、 aVL、 V3~V6 で小さなQ波を認めますが、幅が広くなく(<0.03秒)大きさも小ぶり(<R波の1/4)ですから問題ありません。胸部誘導でR波はV1~V4にかけて徐々に高くなっており、逆にS波はV2→V6へ進むにつれて徐々に浅くなっています。V1のS波の深さとV5のR波の高さの和(SV1+RV5)は17+33=50mm(5.0mV)と35mmをはるかに超えていますから、左室肥大と診断します。
  5. Axis
    肢誘導でR波とS波の大きさの差が最も少ないのはaVL誘導ですから、おおよそその電気軸は+60°です。
  6. ST-T
    II、III、aVF、V5、V6誘導のST部分がT波に向けて下降性(downsloping)に低下しています。このような形のST低下をみた場合には、狭心症などの虚血による心電図変化を念頭に置く必要がありますが、本症例のように左室肥大を伴う場合には、肥大による相対的な心筋虚血によって変化がくる場合もありますから、一枚の心電図だけでどちらかを判定する事はできません。したがってここではとりあえず「ST変化を伴う左室肥大」という風な診断をつけます。もちろん、これが狭心症を思わせる発作中の患者さんの心電図であったり、またこの患者さんの心電図が普段はSTが下がっていないのであれば、心筋虚血という診断をつけなければなりません。T波には明らかな異常はなさそうです。
  7. QT
    QT時間の延長はありません。

ということで、今回の心電図の診断は 左房負荷 + ST変化を伴う左室肥大(心筋虚血?)ということになります。いかがでしょうか?

心電図上のST低下の形には、今回の心電図でみられた下降性(downsloping / sagging)の他にも、水平性(horizontal)、上向性(upstroking / junctional)、盆状(scooped / rounded)などといったタイプがありますから、この機会に教科書を開いて整理しておきましょう。また、ST変化や異常Q波などを認めた場合には、その変化が出ている誘導の組み合わせから虚血や梗塞の部位診断をすることができますから、この機会に各部位を表す誘導の組み合わせを復習しておきましょう。ちなみにこの症例ではII、III、aVFとV5、V6での変化ということから、下壁を中心に後側壁にも虚血が及んでいると診断します。