答え
- リズム
正常の幅のQRS波が規則正しく打っています。しかし、先行するP波は必ずしも一定の場所にはありません。PとQRSとの間隔はまちまちで、重なっている部分もあるようです。P波はI、II、aVFで陽性で、よく見ると80/分余りの速さで規則正しく打っていますから、心房は正常洞調律で打っていると考えられます。しかし、QRS波はP波とは無関係に規則正しく49/分の速さで打っています。
このように、P波とQRS波がそれぞれ別の調律で規則正しく打っていて、「Pの速さ>QRSの速さ」となっていれば、完全房室ブロックと診断します。完全房室ブロックでは、心房の興奮が心室に伝わらないため、心室が下位の自動能で動きますから、「Pの速さ>QRSの速さ」となるのです。この時、自動能が房室接合部から出ればQRS波は正常の形のままで(房室接合部性補充調律)、もう少し下から出れば幅広の波形となります(心室性補充調律)。いずれの場合も心臓にとっては非生理的な状態ですから、ペースメーカーの植え込みを考慮しなければなりません。
余談ですが、この心電図と良く似た波形で、P波とQRS波がそれぞれ別の調律で規則正しく打っていて、「Pの速さ<QRSの速さ」となっているものが時々あります。これは房室解離と言って、心房の打ち方が遅くなった時に房室接合部の自動能の速さが心房の自動能を追い越してしまったために起こる現象です。房室解離は、労作等により心房が速く打ち始めると正常に戻りますから、臨床的に問題になることはありません。 - P
II 誘導のP波は幅が2目盛り(0.08秒)強、高さが約2目盛り(0.2mV)と、いずれも正常範囲内ですから、左房負荷や右房負荷はありません。 - PQ
PQ間隔はまちまちで一定しておらず、P波の数とQRS波の数が合いません。 - QRS
QRS波は幅が約2目盛(0.08秒)で、III とaVR以外では大きなQ波(異常Q波)を認めません。胸部誘導でR波はV1~V4にかけて徐々に高くなっており、逆にS波はV3→V6へ進むにつれて徐々に浅くなっています。V1のS波の深さとV5のR波の高さの和(SV1+RV5)は8+10=18mm(1.8mV)で、左室肥大はありません。 - Axis
肢誘導でR波とS波の大きさの差が最も少ないのはIII 誘導ですから、おおよそその電気軸は+30度です。 - ST-T
明らかなST-T変化はなさそうです。 - QT
QT時間は読みにくいところもありますが、明らかな延長はなさそうです。
ということで今回の波形は 完全房室ブロック(+房室接合部性補充調律)という診断になります。
最初のステップでP波とQRS波との関係にさえ気付けば診断は難しくありません。ただ、正常のQRSが規則正しく打っている心電図ですから、漫然と眺めていると見逃す事もあるので要注意です。