答え

  1. リズム
    幅の広いQRS波が、先行するP波を伴ってほぼ規則正しく打っています。P波はI、II、 aVFで陽性ですから正常洞調律と考えられます。心拍数は55/分程度でしょうか。60/分を下まわっていますから教科書的には洞性徐脈 ということになりますが、この程度では異常とはいえません。

  2. II 誘導でのP波の幅は2目盛(0.08秒)くらいのようですが、途中からQRSが始まっていてハッキリしません。高さは1目盛(0.1mV)で正常範囲内です。
  3. PQ
    PQ間隔は2目盛半(0.10秒)と短縮しています。これはP波の終わる前からQRS波が始まっているためです。
  4. QRS
    QRS波は幅が約4目盛(0.16秒)ほどあり、正常上限の0.10秒よりかなり広くなっています。II、III、aVF、V1~V6のQRS波をみると、正常の波形とは異なり、R波の立ち上がりの部分がなだらかになっています。この立ち上がりの部分の波形は「デルタ波」と言って、PQ時間の短縮と共にWPW症候群に特徴的な波形です。
    WPW症候群では、正常の刺激伝導系を介する房室伝導の他に、Kent束と呼ばれる副伝導路が心房と心室を結んでおり、心房の興奮がこの副伝導路を通って正常の房室伝導よりも先に心室へ降りて行くため、PQ時間が短くなります。またKent束は心室内の刺激伝導系とは繋がっていないため、Kent束から降りてきた興奮により始まった心室興奮はゆっくりとしか広がらず、デルタ波の様になだらかな立ち上がりの波形になってしまうのです。この心室の興奮は、途中から正常の刺激伝導系を介するものに置き換わってしまいますから、QRSの後半は正常に近い形となりますが、デルタ波ができた分QRS幅が広くなるのです。
  5. Axis
    肢誘導でR波とS波の大きさの差が最も少ないのはI誘導ですから、おおよそその電気軸は+90度ということになります。

今回の心電図はQRS幅が正常上限を超えていますから、心室の異常興奮(正常の刺激伝導系を逸脱した興奮)が起こっているものと判断できます。したがって、ST-TやQTに関しては所見を拾っても意味がありません。

ということで、今回の心電図はWPW症候群という診断になります。
WPW症候群は発作性上室性頻拍(Paroxysmal supuraventricular tachycardia : PSVT)や突然死をおこす事のある疾患で、非発作時の典型的な心電図では、今回の波形のようにShort PQ、Wide QRS、Delta wave という特徴的な所見を認めます。この機会に教科書で復習をしておきましょう。臨床の現場では、デルタ波の波形からKent束が心臓のどのあたりにあるのかを類推するのですが・・・・・わかりますか?
この症例では、胸部誘導全てとII、III、aVFで陽性のデルタ波、aVLで陰性のデルタ波を認めますから、ケント束は左前側壁あたりにあると考えられます。