答え
- リズム
ほぼ正常の幅の QRS 波が規則正しく打っていますが、先行する P 波が見当たりません。 QRS の幅が広くない事から心室の興奮は正常(の刺激伝導系を介するもの)と考えられ、それが先行する P 波を伴わずに規則正しく打っている事から、房室接合部調律と診断します。 II、III、aVF や胸部誘導の波形をよく見ると、QRS の立ち上がりから 4 目盛目あたりに小さな波形が乗っているように見えます。実はこれが P 波で、房室接合部から始まった興奮が逆行性に心房へも伝わっていると考えられます。
心拍数は約 46/ 分で房室接合部が元々持っている自動能の範囲内ですから、この心電図は洞結節の自動能が何らかの理由で遅くなってしまったため、房室接合部からの補充調律に切り替わっているものと考えられます。 - P
QRS 波に先行する P 波はありません。 - PQ
先行する P 波がありませんから測定不能。 - QRS
QRS 波は幅が約 2 目盛(0.08秒)あまりで、正常範囲内。
aVL 誘導で一見 QS 型になっているように見えますが、ごく小さな R 波があるようで small R deep S パターン。仮にここの波形を QS (異常)と判断した場合でも、同じ領域を反映する I 誘導や V5、V6 誘導で異常 Q 波や陰性 T 波などの梗塞を疑わせる所見を伴っていませんから、ほとんど病的意義はありません。
胸部誘導で R 波は V1 ~ V3 にかけて高くなっており、S 波は V3 → V6 へ進むにつれて小さくなっています。V1 の S 波の深さと V5 の R 波の高さの和(SV1+RV5)は 20+13=33mm(3.3mV) ですから左室肥大はありません。 - Axis
肢誘導で R 波と S 波の大きさの差が最も少ないのは I と aVL 誘導ですから、おおよそその電気軸は +75 度。 - ST-T
II、III、aVF の ST 部分に小さな下向きの波形(逆行性 P 波)が乗っていますが、明らかな ST 低下や T 波の逆転などはありません。 - QT
QT 時間の延長もありません
ということで今回の心電図は 房室接合部調律 という診断になります。
前回に引き続き普段あまり見かけない波形ですが、心電図の読み方の基本さえ判っていれば、診断に困ることはありません。