答え

  1. リズム
    幅の狭い正常の QRS 波が先行する P 波を伴ってほぼ規則正しく打っています。
    よくみると 5 拍目の QRS 波がわずかに早いタイミングで出ているように見えます。しかし、もっとよく見ると、早いタイミングで出ているように見えるのは下の方に記録されている aVR、aVL、aVF の 3 つの誘導の波形で、上の方に記録されている I、II、III 誘導の波形では早期性がハッキリしません。さらにおかしなことに、この 5 拍目の QRS 波が記録されているタイミングは、I、II、III、aVR、aVL、aVF の順で、上から下へ行くに従って少しずつ早くなっています。記録紙の背景の方眼を見ると、I と aVF では QRS 波の始まりに 4mm あまりのズレがあるのが判りますか? 心電図に記録される QRS 波は各誘導で同時に記録されるはずで、通常はこの記録のように大きくずれる事はありません。実際、4 拍目までの QRS 波は I ~ aVF までが同時に記録されていてズレはありません。しかし 5 拍目以降、胸部誘導の記録の終わりまで、各心拍の QRS 波の記録には I ~ aVF、V1 ~ V6 でズレが生じていて、各誘導の基線も右下がりになっています。また、心電図の最下部に記録されている 1 秒刻みのドットを見ると、3.3 秒あたりから間隔が詰まっていて、4 秒の手前で少し間延びしてその後通常の間隔に戻っています。
    これらの所見から、この心電図は心電計の紙送りが記録開始 3 秒過ぎ頃に記録紙の下の方で滑ってしまい、波形が斜めに記録されてしまったものと考えられます。 P 波は I、II、aVF で陽性ですから、正常洞調律。心拍数は 66/ 分くらい。
  2. P
    II 誘導の P 波は幅が約 2 目盛( 0.08 秒 )、高さは 1 目盛半( 0.15mV )で、いずれも正常範囲内ですから左房負荷や右房負荷はありません。
  3. PQ
    PQ 時間は 4 目盛( 0.16 秒 )ですから、房室伝導は正常。
  4. QRS
    QRS 波は幅が 2 目盛( 0.08 秒 )あまり。aVR 誘導以外では III と aVF 誘導でごく小さな Q 波を認める程度で、異常 Q 波はありません。胸部誘導で R 波は V1 ~ V3 の順に徐々に高くなっていて、S 波は V4 ~ V6 にかけて順に浅くなっています。V1 の S 波の深さと V5 の R 波の高さの和( SV1 + RV5 )は 6 + 9 = 15 ( 1.5mV )くらいですから、左室肥大はありません。
  5. Axis
    肢誘導の QRS 波で、上向きと下向きの成分の大きさの差が最も少ないのは I 誘導ですから、おおよその電気軸は + 90 度。
  6. ST-T
    明らかな ST-T の異常はなさそうです。
  7. QT
    QT の延長や短縮もなさそうです。

ということで、今回の波形は心電計の紙送り異常(心電図波形は異常なし)という診断になります。

心電図を見慣れている人は、最初に波形全体をパッと俯瞰した(見渡した)段階で、記録の後半が斜めに傾いているのに気づくはずです。心電図波形の診断としては「異常なし」という事になりますが、記録として残すのであれば正しくとりなおしたいものです。