答え

  1. リズム
    幅の狭い QRS 波が先行する P 波を伴って規則正しく打っていますが、4 拍目の QRS 波は幅が広く早いタイミングで割り込んできています。この心拍は、早いタイミングで出ている事から期外収縮と考えられ、また QRS 幅が広いことから心室性期外収縮が疑われます。しかし、よくみるとこの期外収縮の直前 5 目盛りあたりに小さな波形があって、これが期外収縮に先行する P 波と考えられますから、心房性期外収縮( Premature Atrial Contraction:PAC )と診断します。また、胸部誘導に切り替わって 2 拍目の QRS 波も幅が広く早いタイミングで割り込んできていますが、これも直前 5 目盛りあたりに先行する P 波と思われる波形を伴っていますから、心房性期外収縮と診断します。
    心房性期外収縮は、心房の異所性自動能が正常のリズムより早いタイミングで割り込んでくる現象です。それが心室に伝わる際、心室の伝導系の一部が不応期を脱していない時期に興奮が降りていくと、脚ブロック型の幅の広い QRS 波になることがあり、この現象を変行伝導( aberrant conductionまたはaberration )といいます。この心電図では、期外収縮の QRS 波が左脚ブロック型になっており、左脚が不応期を脱していないタイミングで興奮が伝わって来たものと考えられます。ちなみに、房室伝導そのもの(右脚と左脚の両方)が不応期の状態の時期には、上室性期外収縮の興奮が心室に伝わらない(ブロックされる)こともあり、この現象は Blocked PAC (房室ブロックを伴う心房性期外収縮)といいます(第41回参照)。
    胸部誘導に切り替わって2拍目に出た期外収縮以降の QRS 波は少し速く打っているようです。約 4 目盛半おきに P 波らしい波形が規則正しく出ていて、これが 3 : 1~4 : 1 で心室に伝わっていると考えられます。このP波らしい波形の興奮頻度が約330/分と非常に速いので、心房粗動( Atrial Flutter:AFL )の 3 : 1~4 : 1 伝導と診断します。 肢誘導で記録されている P 波は I、II、aVF で陽性ですから、この部分のリズムは正常洞調律で心拍数は約 60/ 分、胸部誘導に切り替わって 3 拍目以降は心房粗動で心拍数は 100/ 分前後でしょうか。
  2. P
    II 誘導で P 波の幅は 2 目盛半( 0.10 秒)あまりとやや広めです。V1 の 1 拍目の P 波をみると後半がしっかり陰性の波形になっていますから、左房負荷と診断します。II 誘導で P 波の高さは約 1 目盛半( 0.15mV )ですから右房負荷はありません。
  3. PQ
    PQ 間隔は約 4 目盛半( 0.18 秒)ですから房室伝導は正常。
  4. QRS
    QRS 波は、幅が 2 目盛( 0.08 秒)あまり。aVR 誘導以外では V5、V6 でごく小さな Q 波を認めますが、異常 Q 波はありません。胸部誘導で R 波は V1 → V3 の順に高くなっていて、S 波は V4 → V6 の順に浅くなっています。V1 の S 波の深さと V5 の R 波の高さの和( SV1+RV5 )は5+28=33( 3.3mV )ですから、左室肥大はありません。
  5. Axis
    肢誘導の QRS 波で、上向きと下向きの成分の大きさの差が最も少ない波形は aVL 誘導ですから、おおよその電気軸は+60 度。
  6. ST-T
    明らかな ST 低下や T 波の逆転はなさそうです。
  7. QT
    明らかな QT 時間の延長はなさそうです。

ということで、今回の心電図は(変行伝導を伴う)心房性期外収縮+心房粗動( 3 : 1 ~ 4 : 1 伝導)+左房負荷という診断になります。

期外収縮が心房性ということに気が付きましたか? パッと見て心室性期外収縮だと思っても、先行するP波の有無は必ず確認するようにしましょう。心房が速く打つ原因には様々なメカニズムがありますが、今回の心電図のように、250/ 分以上の速さで規則正しく興奮している状態は、心房粗動と診断します。

この症例は、恐らく何らかの原因で左房負荷がかかっているため心房性期外収縮が出るようになり、それをきっかけに心房粗動が起こってしまったものと考えられます。