答え

  1. リズム
    正常の幅の狭い QRS 波が先行する P 波を伴ってほぼ規則正しく打っています。P 波は I、II、aVF で陽性ですから洞結節からのリズムと考えられます。心拍数は 117 / 分( 18拍 / 9.24 秒 × 60 )と 100 / 分以上ありますから洞性頻脈と診断します。
  2. P
    II 誘導で P 波の幅は 2 目盛半( 0.10 秒)あまりと広めで、V1 の P 波を見ると±の 2 相性を呈しており波形の後半に陰性の部分をしっかり持っていますから、左房負荷と診断します。II 誘導の P波の高さは約 2 目盛( 0.2mV )ですから、右房負荷はなさそうです。
  3. PQ
    PQ 時間は約 4 目盛半( 0.18 秒)ですから、房室伝導は正常。
  4. QRS
    QRS 波は幅が約 2 目盛( 0.08 秒)と正常範囲。I、II、III、aVF と V4 ~ V6 誘導 でごく小さな Q 波を認めますが、明らかな異常 Q 波はありません。胸部誘導で R 波は V1 ~ V3 にかけて徐々に高くなっていて、S 波は V3 ~ V5 にかけて浅くなり V6 では消失しています。V1 の S 波の深さと V5 の R 波の高さの和( SV1 + RV5 )は 18 + 29 = 47 ( 4.7mV )くらいと 35 を超えていますから左室肥大と診断します。
  5. Axis
    肢誘導の QRS 波で、上向きと下向きの成分の大きさの差が最も少ない誘導は I と aVL ですから、おおよその電気軸は+75 度。
  6. ST-T
    明らかな ST-T の異常はなさそうです。
  7. QT
    QT 間隔が RR 間隔の中央をこえていますから延びているようにみえますが、実際にQTcを計算してみると、( 7.5 × 0.04 )÷(√( 13 × 0.04 ) ) = 0.42 となり、明らかな延長はありません。

ということで、今回の心電図は 洞性頻脈 + 左房負荷 + 左室肥大 という診断になります。

正しくすべて診断することができましたか? 一つの所見に気をとられると他を見落とすことがありますから、くれぐれも注意が必要です。
成人の心電図での左室肥大診断は、まず V1 の S 波の深さと V5 の R 波の高さの和(SV1 + RV5 )が 35mm ( 3.5mV )以上あるかどうかでチェックします。しかし、所見がこの基準を満たしているのみで、ST-T 変化を伴っていない場合や aVL の R 波が高くない場合には、実際には肥大がないということも少なくありません。そのため、今回のような心電図の所見は左室高電位と呼び、本当の左室肥大と区別することもあります。