答え
- リズム
QRS 波が、先行する P 波を伴って規則正しく打っています。 QRS は 4 拍目までは幅が広く、5～9 拍目は狭く、10 拍目からはまた広くなっていますが、ほぼ規則正しく打っており、PQ 間隔もほぼ一定です。P 波は I、II、aVF で陽性ですから正常洞調律。心拍数は約 75/ 分弱です。 - P
II 誘導で P 波の幅は 2 目盛（ 0.08 秒）あまり、高さは約 1 目盛半（ 0.15mV ）です。いずれも正常範囲内ですから左房負荷や右房負荷はありません。 - PQ
PQ 間隔は 4 目盛（ 0.16 秒）くらいですから、房室伝導は正常。 - QRS
QRS 波は 1～4 拍目と 10～12 拍目の幅が約 3 目盛半（ 0.14 秒）と広くなっており、心室の異常興奮と考えられます。それに対して 5～9 拍目は幅が約 2 目盛（ 0.08 秒）あまりと正常範囲内で、これらの心拍は心室の正常興奮と考えられます。幅の広い QRS 波はその後半が広くなっていて、 V1 で rR´ 型を呈しています。 R´ 波の存在は左心室の興奮よりも右心室の興奮が遅れている事（右脚ブロック）を意味しており、この R´ 波によって QRS 幅が広がっていますから、これらの波形は完全右脚ブロックと考えられます。今回の記録では、 5～9 拍目のように、途中で正常幅の QRS 波に戻ったりしていますから、一過性の完全右脚ブロックと診断します。
aVR 誘導以外では明らかな Q 波を認めません。幅の狭い QRS 波でみると、胸部誘導で R 波は V1～V4 にかけて徐々に高くなっていて、逆に S 波は V3～V6 へと進むにつれて徐々に浅くなっています。 V1 の S 波の深さと V5 の R 波の高さの和（ SV1＋RV5 ）は 4＋18=22mm（ 2.2mV ）ですから、左室肥大もなさそうです。 - Axis
肢誘導で R 波と S 波の大きさの差が最も少ないのは、幅の狭い（正常幅の） QRS 波では I と aVL 誘導ですから、おおよそその電気軸は ＋75 度で、幅の広い（右脚ブロックの） QRS 波では I 誘導ですから ＋90 度ということになります。 - ST-T
明らかな ST-T 異常はなさそうです。 - QT
幅の狭い QRS 波では、明らかな QT 時間の延長はなさそうです。
ということで、今回の心電図の診断は 一過性完全右脚ブロック です。
記録の途中で QRS 波の形が変わっているのを見て動揺した方がおられるかもしれませんが、洞調律で P と QRS が１：１で出ていることと、幅の広い QRS 波が右脚ブロックであることにさえ気づけば決して難しくはありません。基本に忠実に冷静に所見を拾えば自然と診断できるはずです。