答え

  1. リズム
    正常の幅の QRS 波がほぼ規則正しく打っています。 QRS 波と P 波の位置は 1 拍ごとにずれて行っており、先行する P 波を伴わない QRS や、QRS の後ろに P 波が出ている所もあるようです。P 波は I、II、aVF で陽性ですから心房興奮は正常の洞結節からのものと思われますが、よくみると QRS 波とは関係なく 75/分前後(70~80/分)の速さでほぼ規則正しく出ているようです。QRS 波の心拍は多少変動していますが平均 60/分余り(54~68/分)でしょうか。 心房と心室が互いに関係なくそれぞれ独自の自動能でほぼ規則正しく動いていて、心房が心室よりも速い心拍数で打っている事から、この段階で完全房室ブロックと診断します。
  2. P
    II 誘導で P 波の幅は 2目盛(0.08秒)と正常範囲内ですから左房負荷はありません、しかし高さは約 2目盛半(0.25mV)あまりとやや大きめです。II 誘導の P 波が高い場合には右房負荷ということになりますが、教科書的には 2目盛半(0.25mV)以上という基準と 3目盛(0.3mV)以上という基準がありますから、右房負荷があるかもしれないという程度でしょうか。
  3. PQ
    QRS 波に先行するP波が一定の場所にないため PQ 間隔はまちまちになっています。これは完全房室ブロックのため、心房(P)と心室(QRS)が別々の自動能で動いているからです。
  4. QRS
    QRS 波は幅が約 2 目盛(0.08秒)。Q 波は I、II、 aVL、V4~V6 誘導で小さなものを認める程度で、異常 Q 波はありません。胸部誘導で R 波は V1~V3 にかけて徐々に高くなっていて、S 波は V3~V6 に進むにつれて徐々に浅くなっています。V1 の S 波の深さと V5 の R 波の高さの和(SV1+RV5)は 17+21=38(3.8mV)で、35mm 以上ですから左室肥大と診断します。
  5. Axis
    肢誘導で QRS 波の上向きと下向きの成分の大きさの差が最も少ないのは aVL 誘導ですから、おおよそその電気軸は +60 度で正常範囲内。
  6. ST-T
    明らかな ST 低下や T 波の逆転はなさそうです。
  7. QT
    QT 時間の延長もなさそうです。

ということで、今回の心電図の診断は 完全房室ブロック+左室肥大(+ 右房負荷)ということになります。

完全房室ブロックの心電図は、QRS 幅が広くないとパッと見正常に見える事もあります。しかし、基本に忠実に P 波と QRS 波を読んで、「心房(P波)と心室(QRS波)が互いに関係なくそれぞれ独自の自動能で規則正しく動いていて、心房が心室よりも速く打っている」ということさえ判れば、その診断は難しくありません。