答え
- リズム :整 / 不整、心拍数
やや幅の広いQRS波が、先行するP波を伴ってほぼ規則正しく打っています。 P波はI、II、aVFで陽性ですから正常洞調律と考えられます。心拍数は60/分弱というところ。 - P:幅と高さ
II 誘導でのP波の幅は2目盛(0.08秒)くらいのようですが、途中からQRSが始まっているためハッキリしません。高さは1目盛(0.1mV)で正常範囲内です。 - PQ:PQ時間
PQ間隔は2目盛(0.08秒)と短縮しています。これはP波の終わる前からQRS波が始まっているためです。 - QRS:QRS時間、形と高さ
QRS波は幅が約4目盛(0.16秒)ほどあり、正常上限の0.10秒より長くなっています。I、 aVL、V1~V6のQRSをよくみると、R波の立ち上がりの部分の形状が通常の波形とは異なりなだらかに立ち上がっており、R波のピーク直前から以後は通常通り立ち下がっています。この立ち上がりの部分の波形は「デルタ波」と言って、WPW症候群に特徴的な波形です。
WPW症候群では、正常の刺激伝導系を介する房室伝導の他に、Kent束と呼ばれる副伝導路が心房と心室を結んでおり、心房の興奮が先にこの副伝導路を通って心室へ降りて行くため、心房の興奮が完結する頃に心室の興奮が始まってしまい、PQ時間が短くなります。またKent束は心室内の刺激伝導系とは繋がっていないため、Kent束から降りてきて始まった心室の興奮はゆっくりとしか広がらず、デルタ波の様なゆっくりとした立ち上がりの波形になってしまうのです。この心室の興奮は、途中から正常の刺激伝導系を介するものに置き換わってしまいますから、QRSの後半は正常に近い形となりますが、デルタ波ができた分QRS幅が広くなるのです。一般にST-TやQTの所見は、心室の興奮が正常(正常の刺激伝導系を介したもの)であるという前提で判定していますから、この心電図のようにQRS幅の広い心電図では読んではいけません。 - Axis:電気軸
aVR誘導でR波とS波の大きさの差が最も少なくなっています。おおよそその電気軸は-60度と推察されます。心室が異常興奮をしている心電図の電気軸は、ST-TやQTと同様病的意義をもちません。しかし、他に読める所見が少ない心電図ですから、普段から読んでおけば、後に心臓に新たな問題が起こったかどうかの判断が必要になった際に、電気軸の変化が役に立つ場合がありますから、読んでおくようにしましょう。
ということで、今回の心電図はWPW症候群という診断になります。
今回はちょっと簡単だったでしょうか? Short PQ、Wide QRS、Delta wave というWPW症候群の特徴的所見にさえ気付けばすぐに診断のつく心電図です。簡単でもの足りないなぁと思った人は、この心電図のデルタ波の波形から、Kent束が心臓のどの辺りにあるのか考えてみて下さい。左室側なのか右室側なのか、前か後ろか横か中隔か・・・。カテーテルアブレーションによる治療をする際には、12誘導心電図でKent束のおおよその局在を診断するのです。
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