答え

  1. リズム
    幅の広いQRS波が、不規則に打っています。個々のRR間隔の長さはまちまちで、期外収縮のように割り込んできたQRSが時々リズムを乱しているというのではなく、QRSが全く不規則に打っています。また、P波が判然とせず、その代わりに心電図の基線が不規則に細かく波打っています。前回同様、このようにRR間隔が全く不規則(絶対不整)でP波が判然としていない心電図をみた場合には、その段階で心房細動と診断してまず間違いありません。心拍数は自動診断では88/分と出ていますが、実際に計算してみると平均約84/分(14拍÷10秒×60秒)程度でしょうか。

  2. P波はどの誘導を見ても判然としません。
  3. PQ
    P波はどの誘導を見ても判然としませんから、所見としては読めません。
  4. QRS
    QRS波は幅が約3目盛半(0.14秒)あり、正常上限(0.10秒)よりかなり長くなっていますので、心室の異常興奮(正常の刺激伝導系を逸脱した興奮)が起こっていると考えられます。心房細動によって心室興奮に異常が起こることはありませんから、心室内の伝導異常、特に脚ブロックを疑わなければなりません。そこでV1のQRSを見ると、正常とは異なり完全に上を向いていてその上行脚にノッチを認め、またV2のQRS波はRR’パターンを呈しており、このR’のためにQRS幅が広くなっているようです。肢誘導のQRS波もその後半で幅が広くなっており、心室興奮の後半で時間がかかっているというのが判ります。これらの所見は右心室の興奮が遅れている事を意味しますから、完全右脚ブロックと診断できます。完全右脚ブロックというと、その特徴的所見から「V1でRR’パターン」と思い込みがちですが、「QRSの幅が広い時に、V1のQRSが上向きであれば右脚ブロック」と覚えてもほぼ差し支えありません。V5のR波の高さは24目盛(2.4mV)程度ですから左室肥大はなさそうです。
  5. Axis
    肢誘導でR波とS波の大きさの差が最も少ないのはIIとaVF誘導ですから、おおよそその電気軸は-15度です。

今回の心電図は、QRS幅が正常上限を超えていることから心室の興奮が異常(正常の刺激伝導系を逸脱した興奮)と判断できますので、原則としてST-TやQTに関しては所見を拾っても意味がありません。

ということで、今回の心電図の診断は 心房細動+完全右脚ブロック ということになります。いかがでしょうか?
前回も説明しましたように、最初に心電図をパッと見て「RR間隔が絶対不整≒心房細動」という事にさえ気づけば心房細動の診断は難しくありません。今回の心電図が難しいとするなら、幅の広いQRS波(Wide QRS)が並んでいるのをどう考えるのかという事でしょう。同じ形のWide QRSが続いている心電図は、そのほとんどが脚ブロックか心室調律(心室頻拍・促進型心室固有調律・心室性補充調律など)で説明できます。ただ、心室調律の場合にはQRSが規則正しく出るはずですから、今回のように心房細動の心電図なら、その段階で脚ブロックの可能性が極めて高いと判断します。