答え

  1. リズム
    QRS 波が先行する P 波を伴ってほぼ規則正しく打っています。胸部誘導に切り替わって 1 拍目、3 拍目、5 拍目の QRS 波は、2 拍目 4 拍目に比べてやや幅が広く形も違うようですが、いずれもその手前に先行する P 波を伴っています。P 波は I、II、aVF 誘導で陽性ですから正常洞調律と考えられます。心拍数は 60/ 分くらい。
  2. P
    P 波は II 誘導で幅が 2 目盛半( 0.10 秒)強とやや広めで、V1 で±の二相性になっていますから左房負荷と診断します。II 誘導での P 波の高さは約 2 目盛( 0.20mV )ですから、右房負荷はありません。
  3. PQ
    II 誘導で見ると PQ 間隔は約 4 目盛半( 0.18 秒)ですから房室伝導は正常と考えられます。しかし、胸部誘導に切り替わって 1 拍目、3 拍目、5 拍目の QRS 波では、V4~V6 誘導で見ると PQ 時間が約 3 目盛 ( 0.12 秒)しかなく、P 波が終わる前から QRS 波が始まっているようです。
  4. QRS
    QRS 波は幅が約 2 目盛半( 0.10 秒)で正常範囲内。明らかな異常 Q 波はありません。しかし、胸部誘導に切り替わって 1 拍目、3 拍目、5 拍目の QRS 波は幅が 3 目盛( 0.12 秒)と広くなっていて、他とは違う興奮と考えられます。これらの心拍の V4~V6 誘導の波形を見ると、QRS 波の立ち上がりの部分がなだらかになっており、このために QRS 幅が広くなっているのが判ります。この立ち上がりの部分のなだらかな波形は「デルタ波」と呼ばれ、PQ 時間の短縮と共に WPW 症候群に特徴的な波形です。
    WPW 症候群では、正常の刺激伝導系を介する房室伝導の他に、Kent 束と呼ばれる副伝導路が心房と心室を結んでおり、心房の興奮がこの Kent 束を通って、正常の房室伝導よりも先に心室へ降りて行くとデルタ波が出現し、PQ 時間が短くなります。また Kent 束は心室内の刺激伝導系とは繋がっていないため、Kent 束から降りてきた興奮で始まった心室の興奮はゆっくりとしか広がらず、デルタ波の様になだらかな立ち上がりの波形になってしまいます。心室の興奮は途中から正常の刺激伝導系を介するものに置き換わりますから、QRS 波の後半は正常に近い形となりますが、デルタ波ができた分 QRS 幅が広くなるのです。
    今回の心電図のように、胸部誘導の 1 拍目、3 拍目、5 拍目にだけデルタ波が出現しているのは、房室伝導が Kent 束を通ったり通らなかったりしているためで、このようなものを間欠性 WPW 症候群と呼び、全波形でデルタ波が出ているものと区別することがあります。
    胸部誘導の 2 拍目、4 拍目の R 波はデルタ波がなく幅も広くはありませんから正常の房室伝導と考えられます。しかし、rR´ 型を呈していることから、不完全右脚ブロックと診断します。これらの心拍のR波は、 V1 → V3 の順に高くなっていて、S 波は V3 → V6 の順に浅くなっています。V5 の R 波の高さは約 17mm( 1.7mV )ですから、左室肥大はありません。
  5. Axis
    肢誘導で R 波と S 波の大きさの差が最も少なそうなのは III と aVL 誘導ですから、おおよその電気軸は +45 度。
  6. ST-T
    胸部誘導に切り替わって 1 拍目、3 拍目、5 拍目では ST が低下していて T 波も逆転していますが、これらの心拍はデルタ波を伴っていて心室が正常の刺激伝導系を逸脱した興奮をしていますから、ST-Tの所見を異常と読む事はできません。その他の波形では、aVL でわずかに T 波が逆転している以外、明らかな ST-T 異常はなさそうです。
  7. QT
    明らかな QT 時間の延長はありません。

ということで、今回の心電図は 左房負荷 + WPW症候群(間欠性)+ 不完全右脚ブロック という診断になります。
今回の心電図は胸部誘導で2種類の波形が交互に出ており、パッと見はちょっとややこしそうに見えたかもしれません。しかし P と QRS との関係に注目して基本に忠実に所見を拾えば、自ずと何が起こっているのかが判ってきます。しかし、WPW にばかり気を取られていると、左房負荷や不完全右脚ブロックを読み落としてしまう事がありますから、くれぐれも注意深く読影しなければなりません。