答え
- リズム
幅の狭い QRS 波が先行する P 波を伴って規則正しく打っています。P 波は I、II、aVF で陽性ですから洞結節からの調律と考えられます。心拍数が約 110/分と、100/分以上ありますから洞性頻脈と診断します。 - P
II 誘導の P 波は幅が 2 目盛(0.08 秒)あまり、高さが約 1 目盛半(0.15mV)。いづれも正常範囲内ですから、左房負荷や右房負荷はありません。 - PQ
PQ 時間は約 3 目盛半(0.14 秒)ですから、房室伝導は正常。 - QRS
QRS 波は、幅が 2 目盛(0.08 秒)あまりで正常範囲。II、III、aVF と V5 ~ V6 誘導で Q 波を認めます。これらの誘導では、正常でも小さな Q 波を認めることもありますが、この心電図の V5、V6 の Q 波は幅が 1 目盛弱とやや広く、深さも深めなので、異常 Q 波と診断し、この領域の貫壁性心筋梗塞と考えます。R 波は V1 → V2 で少し高くはなっていますが、V3、V4 と進むにつれて低くなって(起電力の低下)いますから、後で説明する ST 上昇の所見と併せて、この領域の急性~亜急性の心筋梗塞を疑わなければなりません。S 波は V3 ~ V6 にかけて徐々に浅くなっています。V1 の S 波の深さと V5 の R 波の高さの和(SV1+RV5)は 13+12=25(2.5mV)ですから左室肥大はなさそうです。 - Axis
肢誘導の QRS 波で、上向きと下向きの成分の大きさの差が最も少ない波形は aVL 誘導ですから、おおよその電気軸は +60 度。 - ST-T
胸部誘導で ST が上昇しており、特に V3 ~ V5 で顕著で、この領域(前壁)の貫壁性の急性心筋虚血(急性心筋梗塞)が疑われます。また、I、aVL と V6 で T 波が陰性になっており、虚血による影響がこの領域(側壁)にまで及んでいるものと考えられます。 - QT
明らかな QT 時間の延長はなさそうです。
ということで、今回の心電図は洞性頻脈+急性心筋梗塞(前~側壁)という診断になります。
V3、V4 の R 波高の低下と V3 ~ V5 の ST 上昇に気が付きましたか?
胸部誘導では V1 から V2、V3、V4 と順に R 波の高さが高くなっていくのが正常で、高さがあまり変わらない事はあっても途中で低くなることはありません。もし途中で低くなっている心電図を見た場合には、その領域の心筋の起電力の低下(梗塞)か、電極の付け間違いを疑わねばなりません。電極の付け間違いについては V3 から V6 にかけての S 波の深さの変化が参考になり、順に浅くなっているようなら正しく付けられているものと考えます。
ST の上昇については、貫壁性の急性心筋虚血(急性心筋梗塞)や早期再分極などが考えられますが、今回の心電図のように V3 ~ V5 で特に顕著な場合には、この領域の急性虚血と考えなければなりません。