答え

  1. リズム
    幅の広めの QRS 波が規則正しく打っています。 QRS に先行する P 波は必ずしも一定の場所になく、 P 波を伴わない QRS もあるようです。 P 波は I、II、aVF で陽性ですから正常の洞結節からの心房興奮と思われますが、よくみると QRS とは関係なく単独で出ている P 波もあって、これらの心房興奮はほぼ規則正しく約 75/分の速さで出ています。心室( QRS )の心拍数は 30/分弱でしょうか。心房と心室が互いに関係なくそれぞれ独自の自動能で規則正しく動いていて、心房が心室よりも速い心拍数で打っている事から、この段階で完全房室ブロックと診断します。
  2. P
    II 誘導で P 波の幅は 2 目盛( 0.08秒)強、高さは約 2 目盛( 0.2mV )あまりですから、左房負荷や右房負荷はなさそうです。
  3. PQ
    QRS 波に先行する P 波が一定の場所にないため PQ 間隔はまちまちになっています。これは完全房室ブロックのため、心房( P )と心室( QRS )が別々の自動能で動いているからです。
  4. QRS
    QRS 波は幅が約 3 目盛半( 0.14秒)あまりあり、正常上限の 0.10 秒よりかなり長くなっています。この事から、心室が異常興奮(正常の刺激伝導系を逸脱した興奮)をしていると判断しなければなりません。
    今回の心電図の場合、完全房室ブロックのため心房の興奮が心室には伝わっていませんから、心室は房室接合部以下の自動能(補充調律)によって動いていると考えられます。もしこの自動能が房室接合部の上の方(刺激伝導系が右脚と左脚に分かれるよりも上)から出たものであれば、QRS 波は幅の狭い正常の波形になるはずですが、房室接合部の下の方(右脚や左脚,左脚前枝,左脚後枝など)から出たものであれば、この心電図のように幅の広い QRS 波になるのです。
    そこで V1 をみると QRS 波は RR’ ?型で、この R’ ?のために QRS 波の幅が広くなっており、肢誘導や V5、V6 の QRS 波もその後半で幅が広くなっていますから、完全右脚ブロックと同じ波形である事がわかります。さらに、次の Axis (電気軸)の項で説明するように左脚後枝ブロック型の波形となっていますから、この心電図の心室の自動能は(右脚と左脚後枝の興奮が遅れているということで)左脚前肢付近から出ているものと推察できます。
    完全房室ブロックの心電図では、 QRS 幅が広くなっていないかどうかが大切で、右脚ブロック型とか左脚ブロック型とかを気にする必要はありません。今回のように QRS 幅が広いということは、より下位の自動能が心室を動かしていることを意味し、同じ完全房室ブロックでも正常の QRS 波の場合に比べて心拍数が遅くなり心室の動きも悪くなりますから、より悪い状態だと考えなければならないのです。V5 の R 波の高さは 15~20mm ( 1.5~2.0mV )程度で、左室肥大はなさそうです。
  5. Axis
    肢誘導で QRS 波の上向きと下向きの成分の大きさの差が最も少ないのは aVR 誘導。QRS 波は I 誘導で下向き、aVF 誘導で上向きですから、おおよその電気軸は +120 度となり、極端( +110度以上)な右軸偏位があるということで、波形としては左脚後枝ブロックと診断します。

今回の心電図は、QRS 幅が広いことから、心室が異常興奮(正常の刺激伝導系を逸脱した興奮)をしていると考えられますので、原則として ST-T や QT に関しては所見を拾っても意味がありません。

ということで、今回の心電図の診断は 完全房室ブロック(+ 完全右脚ブロック + 左脚後枝ブロック)いうことになります。

心電図を見慣れない人は、極端な徐脈と幅の広い QRS 波に目を奪われてしまったのではないでしょうか。「心房と心室が互いに関係なくそれぞれ独自の自動能で規則正しく動いていて、心房が心室よりも速く打っている」ということさえ判れば、完全房室ブロックの診断は難しくありません。