答え

  1. リズム
    正常の幅の QRS 波が不規則に打っています。明らかな P 波は見当たりませんからこの段階で心房細動と診断します。
    9 拍目(記録が胸部誘導に切り替わった 2 拍目)の QRS 波は幅が広く、心室が正常の刺激伝導系を介さない興奮をしたものと考えられます。これが直前の R 波からの間隔が短い(早期性がある)場合には心室性期外収縮と診断するのですが、この部分の RR 間隔は約 30 目盛( 1.2 秒)と極端に長くなっていますから、期外収縮とは違うようです。この QRS 波をよく見ると V3~V6 誘導で最初の部分に小さなスパイク状の波形があるのが判ります。RR 間隔が伸びた後にスパイク状の波形を伴って始まる幅の広い QRS 波ということで、この 1 拍は心室ペーシングによる波形と考えられます。
    心拍数は平均すると( 14 拍/10 秒ですから) 84/ 分くらいでしょうか。
  2. P
    どの誘導を見ても明らかな P 波はありません。
  3. PQ
    P 波がありませんから計測不能です。
  4. QRS
    9 拍目以外の QRS 波は幅が約 2 目盛( 0.08 秒)強で正常範囲内。明らかな異常 Q 波はありません。胸部誘導の R 波は、V1 →V3 の順に高くなっていて、S 波は V3→V6 の順に浅くなっています。V1 の S 波の深さと V5 の R 波の高さの和( SV1+RV5 )は 1+11=12mm( 1.2mV )ですから左室肥大はありません。
    9 拍目の QRS 波は幅が 3 目盛( 0.12 秒)と広く、最初の部分に小さなスパイク状の波形を伴っていて V1~V5 で QS 型になっていますから心室ペーシングによる波形であることが判ります。
  5. Axis
    肢誘導で R 波と S 波の大きさの差が最も少なそうなのは II、III、aVF 誘導ですから、おおよその電気軸は -30 度~+30 度の間で変化しているようです。とりあえず極端な左軸偏位や右軸偏位の所見はなさそうです。
  6. ST-T
    基線の揺れに伴ってわずかに ST が下がっているように見える波形もありますが、持続的に ST が下がっている誘導はなく、明らかな T 波異常も認めません。
  7. QT
    明らかな QT 時間の延長はありません。

ということで、今回の心電図は 心房細動 + 心室ペーシング という診断になります。

心房細動の診断は「 RR 間隔が絶対不整で P 波がハッキリしない」ということにさえ気づけば難しくはありません。心室ペーシングの波形も、RR 間隔が伸びた後にスパイク状の波形を伴って始まる幅の広い QRS 波という所見さえ拾えればわかるはずです。ちなみに、この心電図ではペーシング波形直前の RR 間隔は約 1.2 秒ありますから、このペースメーカーのペーシングレートは( 60÷1.2 で)50/ 分に設定されている事がわかります。