答え

  1. リズム
    正常の幅の QRS 波が先行する P 波を伴ってほぼ規則正しく打っています。P 波は I、II、aVF で陽性ですから洞結節からの調律と考えられ、心拍数が 100 /分以上ありますから洞性頻脈と診断します。
  2. P
    II 誘導の P 波は幅が 2 目盛( 0.08 秒)、高さは 2 目盛( 0.2mV )強です。いづれも正常範囲内ですから左房負荷や右房負荷はありません。
  3. PQ
    PQ 間隔は 3 目盛半( 0.14 秒)くらいで、房室伝導は正常。
  4. QRS
    QRS 波は幅が約 2 目盛( 0.08 秒)で、aVR 誘導以外では I と aVL にごく小さな Q 波を認めますが、幅も深さもわずかですから異常 Q 波とはとりません。胸部誘導で R 波は V1~V4 にかけて徐々に高くなっていて、逆に S 波は V2~V6 へと進むにつれて徐々に浅くなっています。V1 の S 波の深さと V5 の R 波の高さの和( SV1+RV5 )は 15+20=35mm( 3.5mV )で、ギリギリで左室肥大の基準を満たしています。
  5. Axis
    肢誘導で R 波と S 波の大きさの差が最も少ないのは III と aVF 誘導ですから、おおよその電気軸は +15 度。
  6. ST-T
    II、III、aVF と V4~V6 誘導で ST 低下を認めます。これらの ST 低下の形は上向性で、水平性や下向性のものではありませんが、V4~V6 誘導では QRS 波の終わり(Jポイント)から 2 目盛( 0.08 秒)経過した時点でも 1mm( 0.1mV )以上の ST 低下を認めていますから、心内膜下急性虚血(狭心症)を疑わなければなりません。
  7. QT
    QT 時間の延長はなさそうです。

ということで今回の心電図の診断は 洞性頻脈 + 左室肥大 + 狭心症 (疑) です。

もし被験者が胸部症状(前胸部圧迫感や胸部絞扼感など)を訴えている最中の心電図がこのような波形であった場合には、すぐに狭心症の治療を開始しなければなりません。しかし明らかな症状がない場合には、左室肥大に伴う ST 低下とも考えられますし、また貧血のある患者では洞性頻脈に伴って ST 低下を認める事もありますから、実際の診断には患者の状態や背景などを考慮する必要があります。