答え

  1. リズム
    正常の幅の狭い QRS 波が、先行する P 波を伴って規則正しく打っています。P 波は I 誘導では小さいですがわずかに陽性。しかし II、III、aVF 誘導では陰性ですから、右心房の下の方からの異所性調律で打っていると考えられます。心拍数は約 108 / 分( 18 拍 / 10 秒)と 100 / 分以上ありますから頻拍。異所性の心房(上室性)調律で頻拍になっているということから、上室性頻拍と診断します。上室性頻拍の起こるメカニズムにはいくつかありますが、この心電図のように QRS 波に先行する P 波がハッキリしている場合は、異所性心房自動能の亢進によるものと考えられ、このタイプのものは心房性頻拍と呼んでいます。
  2. P
    II 誘導で P 波の幅は約 2 目盛( 0.08 秒)弱で、高さ(深さ)は約 1 目盛( 0.1mV )です。異所性の心房興奮ですから正しく診断はできませんが、いずれも正常範囲内ですから左房負荷や右房負荷はなさそうです。
  3. PQ
    PQ 間隔は約 4 目盛半( 0.18 秒)ですから、房室伝導は正常。
  4. QRS
    QRS 波は幅が 2 目盛( 0.08 秒)あまり。aVR 誘導が QS 型になっている以外では、II、III、 aVF と V6 にごく小さな Q 波を認めますが、異常 Q 波はありません。胸部誘導で、R 波は V1 ~ V4 にかけて徐々に高くなっていて、S 波は V3 ~ V6 にかけて徐々に浅くなっています。V1 の S 波の深さと V5 の R 波の高さの和( SV1 + RV5 )は 15 + 7 = 22 ( 2.2mV )ですから、左室肥大はありません。
  5. Axis
    肢誘導の QRS 波で、上向きと下向きの成分の大きさの差が最も少ないのは aVL と I 誘導ですから、おおよその電気軸は +75 度。
  6. ST-T明らかな ST-T 異常は認めません。
  7. QTQT 時間の延長もなさそうです。

ということで今回の心電図は、心房性頻拍(上室性頻拍)という診断になります。

上室性頻拍の起こるメカニズムとして頻度が高いのは、
・房室回帰性頻拍:AV reentrant tachycardia (AVRT)
・房室結節回帰性頻拍:AV nodal reentrant tachycardia (AVNRT)
と呼ばれるもので、これらは頻拍時に P 波がハッキリせず、ほぼ一定の心拍数で続くのが特徴です。
今回の心電図のように P 波がハッキリしているものは異所性自動能の亢進による「心房性頻拍:Atrial tachycardia (AT)」と呼ばれるもので、自動能が自律神経の影響を受けるため、頻拍の速さが多少変動することがあります。この機会に上室性頻拍についてもう一度勉強してみましょう。