答え

  1. リズム
    QRS 波が、先行する P 波を伴って規則正しく打っています。P 波は II と aVF 誘導では陽性ですが、I と aVL 誘導で陰性になっていますから、心房の興奮は左から右へ向かっていると考えられます。正常の洞結節からの興奮とは違うようです。心拍数は 65/ 分くらいでしょうか。
  2. P
    II 誘導で P 波の幅は 2 目盛( 0.10 秒)弱、高さは 1 目盛半( 0.15mV )弱で、いずれも正常範囲内。
  3. PQ
    PQ 間隔は 3 目盛半( 0.14 秒)ですから房室伝導は正常。
  4. QRS
    QRS 波は幅が約 2 目盛半( 0.10 秒)でやや広め。I 、aVL でしっかりした Q 波を認めますから異常 Q 波としたいところですが、aVR の QRS が R 波から始まっていて Q 波がないのが気になります。これらの所見とI、aVL の陰性 P 波の所見を併せると、電極の左右つけまちがいの可能性を考えなければなりません。しかし、胸部誘導の R 波は V1→V4 の順に低くなっていて、また V4~V6 では、Q 波が V4→V6 の順に浅くなっていて、しかも S 波が存在せず QR 型を呈しています。正常の波形とはかなり異なっていますから、単なる電極のつけまちがいとは違うようです。ちょっと難しいでしょうか?
    実は、今回の波形は右胸心の人の心電図です。右胸心では心臓が右側にあるため、四肢誘導の波形は左右が裏返ってしまいます(I、aVL と aVR 誘導の波形は±が逆になり、II 誘導と III 誘導の波形は入れ替わってしまいます)。また左胸部に心臓がないため、胸部誘導の波形では R 波がほとんどなくなってしまいます。正しい波形を記録するには、前胸壁上で通常とは左右対称の位置に電極を装着しなければなりません。ですからこの心電図の波形で V2 として記録されている波形が右胸心では V1 に相当する波形ということになり、それが RR´ 型を呈しているということから、不完全右脚ブロックを合併していると診断します。
  5. Axis
    肢誘導で R 波と S 波の大きさの差が最も少ないのは I 誘導ですから、おおよその電気軸は +90 度。
  6. ST-T
    I と aVL の T 波が逆転していますが、右胸心の心電図ではこれらの誘導の±が逆になっていますから、明らかな ST-T 異常はないと考えてよさそうです。
  7. QT
    明らかな QT 時間の延長はなさそうです。

ということで、今回の心電図の診断は 右胸心 + 不完全右脚ブロック です。

右胸心の心電図の診断は、初めて見た人には難しいかもしれません。しかし、特徴的所見がいくつかありますから、一度見ればすぐわかるようになります。今回の波形では不完全右脚ブロックも合併していましたが、見落としませんでしたか?
ご参考までに胸部の電極を右胸心用につけなおして記録した波形を下に提示しておきます。こうして見ると通常の不完全右脚ブロックの波形ということが判るでしょう。