答え

  1. リズム
    正常の幅の QRS 波が先行する P 波を伴ってほぼ規則正しく打っています。P 波は I、II、aVF で陽性ですから正常洞調律。心拍数は約 75/ 分前後でしょうか。
  2. P
    II 誘導で P 波の幅は 2 目盛半( 0.10 秒)強と広めで、V1 誘導の P 波の後半が陰性になっていますから左房負荷と診断します。II 誘導の P 波の高さは約 2 目盛( 0.20mV )あまりですから右房負荷はありません。
  3. PQ
    PQ 間隔は約 4 目盛半( 0.18 秒)ですから房室伝導は正常。
  4. QRS
    QRS 波は幅が約 2 目盛( 0.08 秒)。aVR 誘導以外では aVL 誘導に小さな Q 波を認める程度で、異常 Q 波はありません。胸部誘導で R 波は V1~V4 にかけて徐々に高くなっていて、S 波は V1~V3 にかけて徐々に浅くなり、V4~V6 ではなくなっています。 V1 の S 波の深さと V5 の R 波の高さの和( SV1+RV5 )は 31+36=67 ( 6.7mV )と、35 を大きく超えていますから左室肥大と診断します。
  5. Axis
    肢誘導で QRS 波の上向きと下向きの成分の大きさの差が最も少ないのは III 誘導ですから、おおよその電気軸は+30度。
  6. ST-T
    V4~V6 で ST 部分が水平性( horizontal )~下降性( down sloping )に低下しており、また I、II、aVL、aVF および V3~V6 誘導で T 波の逆転を認めます。一般にこのような形の ST-T 変化を見た場合には、まず狭心症や心筋梗塞などの心筋虚血による心電図変化を念頭に置く必要があります。
    しかし左側胸部誘導で R 波の波高が高く左室肥大が疑われる場合には、肥大に伴う相対的な心筋虚血による ST-T 変化の事も多く、一枚の心電図だけでどちらかの診断を確定することは困難です。ただ、経験的に梗塞に伴う陰性 T 波は左右対称の形になっている事が多いのに対し、今回の心電図の陰性 T 波は、前半の掘れ込んで行く部分に比べて後半の戻ってくる部分が急峻で非対称になっていますから、左室肥大に伴う陰性 T 波の可能性が高いと考えられます。また、この心電図が無症状の健康な被験者の記録であれば、狭心症や心筋梗塞の発作中であるとは考えにくく、その面からも左室肥大に伴う ST-T 変化と考えられます(実際この被検者では、心エコー検査にて心尖部肥大型心筋症と考えられる所見を認めています)。このような、左室肥大に伴う深い陰性 T 波は 「巨大陰性 T 波: Giant negative T 」 と呼ばれています。
  7. QT
    明らかな QT の延長はなさそうです。

ということで、今回の心電図の診断は 左房負荷 + ST-T 変化を伴う左室肥大 ということになります。

成人の心電図を読む際、左室肥大の有無は、まず V1 の S 波の深さと V5 の R 波の高さの和( SV1+RV5 )が 35mm ( 3.5mV )以上あるかどうかでチェックしますが、この基準を満たしているだけの場合には実際には肥大が無いことも多いため、左室高電位という診断をつけることも多いようです。しかし、今回の心電図ように明らかな ST-T 変化を伴っている場合には、実際に左室肥大があると考えてほぼ間違いありません。