答え
- リズム
幅の狭い QRS 波が先行する P 波を伴ってほぼ規則正しく打っています。P 波は I、aVL で陰性、aVR で陽性ですから左房調律が疑われます。しかしここで、I 誘導の QRS 波が何となく変なのが気になります。
本来 I 誘導の QRS 波は上向きの波形になっていることが多いのですが、この心電図では大きな Q 波で始まり下向きの波形になっています。また、aVL の QRS 波も QS 型を呈しており、まったく下向きになっていますから、心室の興奮も左から右へ向かっていると考えなければなりません。QRS波の幅は広くないので心室は正常の刺激伝導系を介する興奮をしていると考えられ、心房の興奮も心室の興奮も左から右へ向かっているというのであれば「右胸心?」ということになるのですが、胸部誘導の QRS 波は V1 → V6 と普通の並びをしていますから、右胸心ではなさそうです。とすると考えられるのは……判りましたか?
実はこの心電図は、手の電極の左右を付け間違えて記録された波形です。そのため I 誘導の波形は本来の波形とは±が逆の形となり、aVL 誘導と aVR 誘導および II 誘導と III 誘導の波形が入れ替わって記録されているのです。ちなみに鏡を画面の上方にかざして映っている波形をその上から見ると見慣れた I 誘導の波形になるはずです。
心拍数は約 65/ 分。 - P
III 誘導(本来の II 誘導)の P 波は、幅が 2 目盛( 0.08 秒)あまり、高さは約 1 目盛半( 0.15mV )ですから、左房負荷や右房負荷はありません。 - PQ
PQ 時間は約 5 目盛( 0.20 秒)くらいですから房室伝導は正常。 - QRS
QRS 波は幅が約 2 目盛( 0.08 秒)。II、III、aVF 誘導でごく小さな Q 波を認める以外では、aVL 誘導が QS 型、I 誘導が Qr 型を呈しています。この aVL として記録されている波形は本来の aVR の波形ですから QS 型でも異常ではありません。また I 誘導の Q 波は電極の左右付け間違いにより極性が逆になっているだけですから、本来は R 波のはずです。胸部誘導で R 波は V1 ~ V3 にかけて徐々に高くなっていて、S 波は V3 ~ V4 にかけて浅くなり、V6 では消失しています。V1 のS波の深さと V5 の R 波の高さの和( SV1 + RV5 )は 7 + 18 = 25( 2.5mV )くらいですから左室肥大はありません。 - Axis
肢誘導の QRS 波で、上向きと下向きの成分の大きさの差が最も少ない誘導は I と aVR (本来の aVL )ですから、おおよその電気軸は + 75 度。 - ST-T
明らかな ST-T の異常はなさそうです。 - QT
QT の延長や短縮もなさそうです。
ということで、今回の心電図は 電極左右付け間違い という診断になります。
電極の左右付け間違い は、心電図の記録に慣れて来始めた頃によくやる失敗です。特に慌てて電極を付けた時にやってしまいますから注意が必要です。心電図を読む際にも、左房調律というのは比較的稀な所見ですから、I と aVL で陰性の P 波を認めた場合には、必ず右胸心や 電極の左右付け間違い も疑わなければなりません。