答え

  1. リズム
    正常の幅のQRS波が規則正しく打っていますが、P波が判然としません。どの誘導の波形を見てもP波が見当たらない事から、これらのQRS波は心房よりも下の自動能で打っていると考えられます。またQRS波の幅が広くなく心室の興奮が正常と考えられますから、房室接合部調律と診断します。心拍数は100/分弱で頻拍ではありません。

  2. QRS波に先行する位置にP波はなく、その他のどの部分を見ても、この記録にはハッキリとしたP波はありません。
  3. PQ
    P波がないのでPQ時間は計測不能です。
  4. QRS
    QRS波は幅が約2目盛(0.08秒)あまりで、aVR誘導以外では明らかなQ波を認めません。胸部誘導ではV1のQRS波がRR’ パターンを呈しています。このR’ 波は非常に小さいので所見としてとるかとらないか迷うところですが、この波形のようにR波よりR’ 波の方が大きい(R<R’ の)場合には有意な異常所見としてとるようにします。
    この右側胸部誘導で見られるR’ 波は、心室の収縮期後半にこれらの電極に近づいてくる興奮がある事を表していますから、右心室の興奮が左心室の興奮よりも遅れているもの(右脚ブロック)と考えられます。しかしQRSの幅は完全右脚ブロックの時のように広がっておらずほぼ正常範囲内であることから、不完全右脚ブロックと診断します。
    R波はV1→V4へ進むにつれて徐々に高くなっていて、S波はV3→V6へ進むにつれて、徐々に浅くなっています。V1のS波の深さとV5のR波の高さの和(SV1+RV5)は5+17=22mm(2.2mV)で、左室肥大はありません。
  5. Axis
    肢誘導でR波とS波の大きさの差が最も少ないのはaVL誘導ですから、おおよそその電気軸は+60度です。
  6. ST-T
    明らかなST-T異常はなさそうです。
  7. QT
    明らかなQT延長もありません。

ということで今回の波形は 房室接合部調律 + 不完全右脚ブロック という診断になります。
P波がないことにさえ気づけば房室接合部調律の診断は難しくありません。しかし、心電図を漫然と見ていると見落としてしまいますから、基本に忠実に所見を拾って行く事が大切です。不完全右脚ブロックの所見をとるかとらないかについては意見の分かれるところですが、V1でRR’ 型でR<R’ という右脚ブロック波形の基本的条件を一応満たしていますから、異常所見としてとるようにします。