答え

  1. リズム
    最初の 2 拍は正常の幅の QRS 波が先行する P 波を伴って打っていますが、2 拍目が出た後に、波形がなく基線だけが間延びしている部分があります。心房の興奮( P 波)がなくなったため心拍( QRS )が出ていない状態ですから、洞不全(洞停止または 2 度の洞房ブロック)が疑われます。遅れて出てきた次の QRS ( 3 拍目)は先行する P 波を伴っていませんが、QRS の幅や形は最初の 2 拍と同じですから、心室の興奮自体は正常のようです。心房からの興奮が降りてこないため房室接合部の自動能が働いて心室を興奮させたものと考えられます。このように、徐脈性不整脈の際に心臓が止まってしまうのを避けるために下位の自動能が働いた心拍のことを補充収縮と呼びます。

    その次の心拍( 4 拍目)は早いタイミングで出ており、先行する P 波(その直前の心拍の T 波のピークの手前にある小さなノッチ)を伴っています。さらに、胸部誘導に切り替わってからは徐脈傾向が強く、最初の 1 拍(記録の 5 拍目)以外は先行する P 波がハッキリしません。全体をよく見直してみると、QRS 波は 2 ~ 3 拍目と 4 ~ 5 拍目およびそれ以降 5 ~ 6 拍目 6 ~ 7 拍目のRR間隔がいずれも約 46 目盛前後とほぼ一定で、これらの心拍がすべて房室接合部の自動能によって出ている事が判ります(房室接合部調律)。

    一方 P 波は、2 拍目以降、4 拍目の8 目盛手前、5 拍目の 4 目盛手前、6 拍目の 4 目盛後ろ、7 拍目の直前にあり、その間隔は 40 ~ 60 目盛とバラバラで不規則ですから、一連の現象は洞不全洞停止の形で現れたものと考えられます。

    以上よりこの心電図のリズムは、洞不全により心房の興奮頻度が減ってしまった結果、房室接合部から補充収縮が出て、その後、心房の徐脈傾向が強いため房室接合部の自動能で心室が打つ房室接合部性補充調律の状態になっているものと診断します。
    最初の 2 拍の P 波は I、II、aVF で陽性で正常の洞結節からの興奮と考えられます。この部分の心拍数は 50/ 分。房室接合部調律の部分では心拍数は 33/ 分くらい。
  2. P
    II 誘導で最初の 2 拍の P 波の幅は 2 目盛( 0.08 秒)あまり、高さは約 1 目盛半( 0.15mV )ですから、左房負荷や右房負荷はありません。
  3. PQ
    先行する P 波を伴っている QRS 波の PQ 間隔は最初の 2 拍では約 5 目盛( 0.20 秒)、胸部誘導の 1 拍目では 4 目盛( 0.16 秒)です。何れも基準の範囲内ですから房室伝導は正常と考えられます。
    4 拍目の PQ 間隔だけは約 8 目盛と他に比べて長くなっていますが、これはこの部分の RR 間隔が他に比べて短いためと考えられます。一般に、心拍数が上がるにつれて房室伝導は悪くなる傾向があり、人によっては 120/ 分程度の速さで 2 度の房室ブロックになることもありますから、この心拍の PQ 延長は許容範囲内というところでしょう。
  4. QRS
    QRS 波は幅が約 2 目盛( 0.08 秒)強。aVR 誘導以外では II、III、aVF と V6 に小さな Q 波を認めますが、幅が狭く深さも浅いので異常 Q 波ではありません。胸部誘導で R 波は V1 ~ V3 にかけて徐々に高くなっていて、S 波は V3 ~ V6 にかけて徐々に浅くなっています。V1 の S 波の深さと V5 の R 波の高さの和( SV1 + RV5 )は 7 + 14 = 21( 2.1mV )ですから、左室肥大はありません。
  5. Axis
    肢誘導で QRS 波の上向きと下向きの成分の大きさの差が最も少ないのは aVL 誘導ですから、おおよその電気軸は + 60 度。
  6. ST-T
    明らかな ST-T の異常はなさそうです。
  7. QT
    QT の延長や短縮もなさそうです。

ということで、今回の心電図は 洞不全症候群( RubensteinⅡ 型) + 房室接合部性補充調律 という診断になります。

洞不全症候群( sick sinus syndrome は「SSS」と省略して表わされる事が多く、 Rubenstein (ルーベンシュタイン)分類によって I 型:洞性徐脈、II 型:洞房ブロックと洞停止、III 型:徐脈頻脈症候群の3つに分けられます。今回の心電図は洞不全の中でも、 Rubenstein の II ですから、省略して「洞不全の II 」あるいは「 SSS-II 」などと呼ばれることも少なくありません。
徐脈性不整脈の際には心臓が長時間止まるのを避けるため下位の自動能が働き、補充収縮補充調律とよばれる心拍が現れるという事を、この機会に確認しておきましょう。