答え

  1. リズム
    ほぼ正常の幅の QRS 波が、7 拍目までは先行する P 波を伴わず不規則に打っています( II、III、aVF 誘導で 1~3 拍目の間に P 波らしい基線の揺れを認めますが、形が不揃いで、他の肢誘導でハッキリしていませんからP波とはとりません)。この段階で 7 拍目までは心房細動( Atrial fibrillation : AF )と診断できます。8 拍目からは先行する P 波を伴った QRS 波になっていて、I、II、aVF の P波が陽性ですから、正常洞調律に復帰しているのが判ります。
    9 拍目と 10 拍目の間隔は少し長めで、QRS が脱落しているようです。QRS が出ていない場合、洞房ブロックや洞停止などの洞不全を疑わなければなりません。しかし波形をよく見ると、9 拍目の T 波のピークの形が 10 拍目や 12~13 拍目の T 波と少し違っていて、T 波の頂上辺りに P 波が乗っているようですから、ここで心房性期外収縮( Premature atrial contraction : PAC )が出て、その興奮が心室に伝わらなかったものと考えられます。これは Blocked PAC (房室ブロックを伴う心房性期外収縮)と呼ばれる現象で、心房性期外収縮が、直前の房室伝導が未だ不応期を脱していないタイミングに出たため、興奮が心室に伝わらなかったのです。同じ現象が11拍目の直後にもみられます。
    12 拍目と 13 拍目は少し早いタイミングで出ていて、直前の 3 拍( 9~11 拍目)と比べて P 波がハッキリしません。11 拍目と 12 拍目の間には P 波らしい波形が 2 つあり( 11 拍目の T 波の頂点のものを含めると 3 つ)、12 拍目の後にも QRS の直後と T 波の後半に P 波らしい痕跡がありますが、いずれも形が不揃いですから、心房細動( Atrial fibrillation : AF )が再発したものと考えられます。このように、突然始まったり終わったりする心房細動の事を、発作性心房細動( Paroxysmal AF )とか一過性心房細動( Transient AF )と呼びます。
    心拍数は、心房細動の部分で 60~150/分(平均 100/分あまり)、洞調律の部分で 60/分ほどでしょうか。
  2. P
    洞調律になった 8 拍目で II 誘導の P 波は、幅が 2 目盛( 0.08 秒)あまり、高さが 1 目盛半( 0.15mV )ですから、左房負荷や右房負荷はなさそうです。
  3. PQ
    洞調律時の PQ 間隔は 4 目盛( 0.16 秒)弱で正常範囲内。
  4. QRS
    QRS 波は幅が約 2 目盛( 0.08 秒)。aVR 誘導以外では Q 波を認めません。胸部誘導で R 波は V1~V4 にかけて徐々に高くなっていて、逆に S 波は V3~V6 へと進むにつれて徐々に浅くなっています。V1 の S 波の深さと V5 の R 波の高さの和( SV1+RV5 )は 8+14=22mm( 2.2mV )ですから、左室肥大はありません。 
  5. Axis
    肢誘導で R 波と S 波の大きさの差が最も少ないのは III 誘導と aVF 誘導ですから、おおよそその電気軸は+15 度。
  6. ST-T
    明らかな ST-T 異常は認めません。
  7. QT
    QT 時間の延長もなさそうです。

ということで、今回の心電図の診断は 発作性心房細動( Paroxysmal atrial fibrillation )+ 心房性期外収縮 ( Premature atrial contraction )です。

今回は心房細動が起こったり止まったりする心電図でしたが、短い記録の中でそれを判断するのは難しかったかもしれません。沢山の心電図を読んで慣れるようにしましょう。