答え
1.リズム
正常の幅のQRS波が、先行するP波を伴って打っていますが、8拍目と9拍目の間(胸部誘導に切り替わって3拍目と4拍目の間)が少し間延びしているようです。この間延びしている部分の前後の波形は、他の心拍の波形とほぼ同じ形をしており、間延びした部分にはP波らしき波形はまったく出ていません。心房の興奮が出ていないためにQRS波も抜け落ちてしまったようです。
そこで、間延びしている直前と直後の心拍(8拍目と9拍目)のP波の間隔を見てみると、その次の9拍目と10拍目のP-P間隔のほぼ2倍になっているのがわかります。この事から、心房を規則正しく興奮させる洞結節の自動能は保たれていると推察でき、にもかかわらずP波が出てこないということから、洞結節の興奮が心房に伝わらない洞房ブロックが起こっているものと考えられます。
P波は I 誘導で陽性ですが、II 誘導で±からわずかに陰性、III、aVFで陰性で、心房の興奮は通常よりもやや低い位置の右房から始まっていると考えられます。心電図の読影に際しては、P波がI、II、aVFで陽性である(陰性ではない)こと、またはP波がaVRで陰性であることで、洞結節から始まった心房興奮と判断しますから、今回の波形は後者の条件を満たしているということで、一応正常洞調律と診断します。
心拍数は約66/分前後で正常範囲内。
2.P
II 誘導のP波は±、一部でわずかに陰性で幅は2目盛(0.08秒)あまりです。高さも1mmないくらいですから、左房負荷や右房負荷はありません。
3.PQ
PQ間隔は約3目盛(0.12秒)強で、房室伝導は正常範囲内。
4.QRS
QRS波は幅が約2目盛(0.08秒)で、正常範囲内。I 、?aVL 、V5、V6 で小さなQ波を認めますが、幅が広くないので通常の心室中隔の興奮を表す波形です。胸部誘導でR波はV1~V4にかけて徐々に高くなっており、逆にS波はV3→V6へ進むにつれて徐々に浅くなっています。 V1のS波の深さとV5のR波の高さの和(SV1+RV5)は11+30=41mm(4.1mV)で、3.5mVを超えていますから左室肥大と診断します。この値が大きいだけで実際に肥大が起こっていることはそう多くありませんが、肥大の早期を捉えている場合もありますからコメントするようにします。この時、左側胸部誘導でST低下や陰性T波の所見をともなっていたり、aVL誘導のR波が10mm(1.0mV)を超えていたりすれば、ほぼ間違いなく左室肥大があるものと考えなければなりません。
5.Axis
肢誘導でR波とS波の大きさの差が最も少ないのは III とaVL誘導ですから、おおよそその電気軸は+45度です。
6.ST-T
有意なST-T異常はなさそうです。
7.QT
明らかなQT延長もありません。
ということで、今回の心電図は 洞房ブロック + 左室肥大 という診断になります。
前回(第42回)の心電図との違いはわかりましたか? QRSが抜け落ちている部分にP波があるかどうかがポイントです。しかし、今回のようにP波がない場合には、洞房ブロックと洞停止との鑑別が新たな問題となります。この心電図では、QRSが抜け落ちている部分のP-P間隔が次のP-P間隔のほぼ2倍になっていましたから洞房ブロックと診断できましたが、一枚の心電図でハッキリ洞停止と鑑別できることは比較的少なく、多くの場合これらをまとめて洞不全症候群と診断します。