答え
- リズム
幅の狭い QRS 波が先行する P 波を伴って規則正しく打っています。P 波は I、II、aVF で陽性ですから正常洞調律、心拍数は 60 / 分あまり。 - P
II 誘導の P 波は、幅が約 2 目盛半( 0.10 秒)あまりとやや広めで、V1 の P 波をみると±の二相性を呈しており後半にしっかり陰性の波形を伴っていますから、左房負荷 と診断します。II 誘導の P 波の高さは約 1 目盛半( 0.15mV )ですから、右房負荷はありません。 - PQ
PQ 時間は 5 目盛( 0.20 秒)と正常上限。 - QRS
QRS 波は幅が 2 目盛(0.08秒)ほどで正常範囲内。aVL と V2 ~ V4 誘導で QS 型になっており、また V5、V6 では幅が広め(> 0.03 秒)の Q 波を認めます。これらの Q 波や QS 波は異常 Q 波と考えられますから、この領域、すなわち広範囲 前壁の心筋梗塞 があると考えなければなりません。 V1 の S 波の深さと、V5 の R 波の高さの和( SV1 + RV5 )は小さいところで 19 + 5 = 24 ( 2.4mV )、大きいところでは 21 + 9 = 30 ( 3.0mV )ですから、左室肥大はありません。 - Axis
肢誘導の QRS 波で、上向きと下向きの成分の大きさの差が最も少ないのは I 誘導ですから、おおよその電気軸は+ 90 度。 - ST-T
V2 ~ V5 誘導で ST 部分が少し上昇しています。異常 Q 波が出ている誘導に一致して ST の上昇を認めていますから、心筋梗塞に伴う 心室瘤(左室瘤)の形成 が疑われます。また、aVL と V4、V5 で陰性 T 波を認めますが、これらは心筋梗塞による影響と考えられます。 - QT
QT 時間の延長はなさそうです。
ということで、今回の心電図の診断は 左房負荷+前壁心筋梗塞+左室瘤 ということになります。
所見をすべて拾うことができましたか?
今回の症例は、左室前壁に広範囲の梗塞を起こしたため、その領域の心室壁が広がり、心室瘤(左室瘤)を形成してしまったものと考えられます。その領域の広さや、左房負荷の所見を伴っていることなどから、心機能の低下(心不全)も疑っておかなければなりません。