答え

  1. リズム
    幅の狭い QRS 波が先行する P 波を伴って規則正しく打っています。P 波は I、II、aVFで陽性ですから洞調律。心拍数は約 46/ 分ほどと遅くなっていますから洞性徐脈と診断します。
  2. P
    II 誘導で P 波の幅は 2 目盛( 0.08 秒)あまり、高さは約 1 目盛半( 0.15mv )ほどで、いずれも正常範囲内ですから左房負荷や右房負荷はありません。
  3. PQ
    PQ 間隔は約 5 目盛( 0.20 秒)と正常上限で、房室伝導は正常と考えられます。しかしよく見ると、胸部誘導に切り替わったあたりから PQ 間隔が 1 拍ごとに短くなっていっているようです。
    一般に房室伝導は、通りが悪くなってくると 1 拍ごとに PQ 間隔が延びていき 2 度 type1 房室ブロックになるのが常で、それとは逆に、1 拍ごとに房室伝導が良くなるという現象が起こることはありません。ですから、この心電図のように PQ 間隔が 1 拍ごとに短くなっていっている場合には、P と QRS がそれぞれ別個のリズムで打っていて、P よりも QRS の方が速くなっていると考えなければなりません。そういう目でもう一度心電図を見直してみると、PP 間隔が最初の方では 33 目盛弱であったのが、胸部誘導に切り替わった 2 拍目辺りから 34 目盛あまりと少し延びてきており、その辺りから PQ が短くなっていっているのがわかります。恐らく心房の自動能( P )が房室接合部の自動能( QRS )よりも遅くなったため、QRS が P を追い越してしまっているものと考えられます。このように、P と QRS がそれぞれ別個のリズムで打っていて、P よりも QRS の方が速くなっている状態のことを房室解離と呼びます。
  4. QRS
    QRS 波は幅が約 2 目盛半( 0.10 秒)弱で正常。aVR 誘導以外では明らかな Q 波を認めません。胸部誘導で R 波は V1~V4 にかけて徐々に高くなっていて、S 波は V3~V6 にかけて徐々に浅くなっています。V1 の S 波の深さと V5 の R 波の高さの和(SV1 + RV5)は 15 + 16=31 ( 3.1mV )ですから左室肥大もなさそうです。
  5. Axis
    肢誘導で QRS 波の上向きと下向きの成分の大きさの差が最も少ないのは aVL 誘導ですから、おおよその電気軸は + 60 度。
  6. ST-T
    明らかな ST 低下や T 波の逆転はなさそうです。
  7. QT
    QT 時間の延長もなさそうです。

ということで今回の心電図は、洞性徐脈 + 房室解離 という診断になります。

房室解離に気がつきましたか? 基本に忠実に P 波と QRS 波の関係をチェックしていれば見落とすことはないはずです。房室解離は徐脈傾向の時に時々見られる所見ですが、P が速くなるにつれて房室伝導が回復するようであれば、検査や治療の必要はありません。