答え
- リズム
幅の狭い QRS 波が、何となく不規則に打っています。よく見ると P 波の数と QRS 波の数が合いません。2 拍目と 3 拍目の間、3 拍目と 4 拍目の間、5 拍目と 6 拍目の間、8 拍目と 9 拍目の間では、P 波だけが出ていて、それに対応する QRS 波が脱落しているようです。
ところどころで P 波だけが出ていて、それに対応する QRS 波が脱落していますから、2度の房室ブロックと診断します。2度の房室ブロックの中でも、この心電図のように QRS 波が出ている部分の PQ 間隔は一定で、P に対応する QRS 波が時々脱落するものを、2度 type 2 房室ブロックまたは 2度 Mobitz モビッツ 2 型房室ブロックと呼びます。 P 波は I、II、aVF で陽性ですから、基本調律は洞調律と考えられ、心房は約 80 / 分の速さで規則正しく打っています。 - P
II 誘導で P 波の幅は約 3 目盛( 0.12 秒)と広くなっています。そこで、V1 誘導の P 波を見ると±の二相性を呈しており、P波の後半にハッキリした陰性の部分を認めますから、左房負荷と診断します。
II 誘導の P 波の高さは約 1 目盛半( 0.15mV )ですですから、右房負荷はありません。 - PQ
2 度房室ブロックですから、ところどころで P 波に対応する QRS 波が脱落していますが、QRS 波が出ている部分での PQ 間隔は約 6 目盛( 0.24 秒)でほぼ一定。正常の上限を超えていますから、元々房室伝導が悪く、1 度の房室ブロックがあったと考えられます。 - QRS
QRS 波は幅が 2 目盛( 0.08 秒)あまりで正常範囲内。Q 波については、aVR 誘導以外では、III と aVF 誘導でごく小さなものを認めるほか、V1 が QS 型になっています。
正常の心室の興奮は、心室中隔の左から右への興奮で始まりますから、右側胸部誘導( V1、V2 )の QRS 波は R 波で始まるはずで、ここに Q を認めた場合には、原則として異常Q波と考えなければなりません。しかし、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などで、心臓が(下から見て)時計方向に回転している場合には、心臓に問題がなくても右側胸部誘導が QS 型になることがあります。したがって、V1 が QS 型であっても、この心電図のように V1 ~ V3 にかけて R 波が順に高くなっていて他に虚血を示唆する所見がない場合には、異常 Q 波とはとりません。
胸部誘導で S 波は V3 ~ V6 にかけて徐々に浅くなっています。V1 の S 波の深さと V5 の R 波の高さの和( SV1 + RV5 )は心拍によって差がありますが 11 + 15 = 26 ( 2.6mV )前後ですから、左室肥大はありません。 - Axis
肢誘導のQRS波で、上向きと下向きの成分の大きさの差が最も少ないのは aVL 誘導ですから、おおよその電気軸は+ 60 度。 - ST-T明らかな ST-T の異常はなさそうです。
- QTQT 時間の延長もなさそうです。
ということで、今回の心電図は 2 度 type 2 房室ブロック( 2 度 Mobitz モビッツ 2 型房室ブロック)+左房負荷という診断になります。
房室ブロックの診断は正しくできましたか? 2 度 type 2 房室ブロックは、PQ 時間が一定のままで突然 QRS 波が脱落するという所見で診断します。Type1 ( Wenkebach ヴェンケバッハ型)に比べて頻度は少なく、His 束の下部の伝導障害によるものと言われています。
V1 誘導の QS 型波形を異常ととるかとらないかは、心電図を読み慣れてくると判るようになります。そのためにもたくさんの心電図を読んでみるようにしてください。