答え

  1. リズム
    幅の広い QRS 波が、先行する P 波を伴わず規則正しく打っています。QRS の幅が広いことから心室の興奮は正常ではないと考えられ、また胸部誘導で QRS の開始点にスパイク状の波形を伴っていますから、心室ペーシングリズムと考えられます。さらに、ハッキリした P 波がどこにもない事から、元々のリズムは心房細動( Atrial fibrillation:AF )と診断します。心房細動患者で徐脈が問題になった場合には、心室だけで自脈の有無を検出してペーシングする VVI というタイプのペースメーカーを用います。 心拍数は 70/分。
  2. P
    ハッキリした P 波はありません。
  3. PQ
    P 波がないので読めません。
  4. QRS
    QRS 波の直前にペーシングによるスパイク状の波形を伴っていて、幅が約 4 目盛( 0.16 秒)とかなり広くなっています。幅が広い事から(正常の刺激伝導系を介さない)異常興奮と考えられ、ペーシングスパイクを伴っている事から心室ペーシングの波形と判断します。通常心室ペーシングは右心室で行いますから、QRS 波は右側胸部誘導で左脚ブロック型となり V1~V4 で QS 型を呈しています。また II、III、aVF で QS 型になっていて、右室心尖部からのペーシングである事がわかります。
    心室ペーシングのため、この波形から左室肥大や右室肥大の有無は読めません。
  5. Axis
    肢誘導で QRS 波の上向きと下向きの成分の大きさの差が最も少ないのは I 誘導と aVR 誘導ですから、おおよそその電気軸は -75 度。
    心室ペーシングなので電気軸の値に診断的意義はありませんが、万一心室の中でペーシング電極が動いてしまうと電気軸が変わりますから、元々どれくらいの電気軸だったかを記録しておくと役立ちます。

今回の心電図は、QRS 幅が正常の正常上限を超えていることから心室の興奮が異常(正常の刺激伝導系を逸脱した興奮)と判断できますので、原則として ST-T や QT に関しては所見を拾っても意味がありません。

ということで、今回の心電図の診断は 心室ペーシング( VVI pacing ) + 心房細動 ( Atrial fibrillation:AF )です。

ペーシングリズムの心電図の診断は、ペーシングスパイクにさえ気がつけば難しくありません。今回の心電図では、とりあえず心室ペーシングであるということが判れば充分ですが、できれば VVI であるということや心房細動であるということも判るようにしたいものです。