答え

  1. リズム
    正常の幅の QRS 波が先行する P 波を伴って規則正しく打っています。 P 波は I、II、aVF で陽性ですから正常洞調律。心拍数は 60/分より少し速めです。
  2. P
    II 誘導で P 波の幅は 2 目盛( 0.08秒)、高さは約 1 目盛( 0.1mV )といずれも正常範囲ですから、左房負荷や右房負荷はありません。
  3. PQ
    PQ 間隔は約 4 目盛( 0.16秒)ですから房室伝導は正常。
  4. QRS
    QRS 波は幅が約 2 目盛( 0.08秒)。aVR 誘導が QS 型になっている以外あきらかな Q 波は認めません。R 波は V1~V3 にかけて徐々に高くなっており、S 波は V3→V6 へ進むにつれて小さくなっています。V1 の S 波の深さと V5 の R 波の高さの和( SV1+RV5 )は 15+44 = 59mm(5.9mV) と 35mm をはるかに超えていますから左室肥大と診断します。
  5. Axis
    肢誘導で QRS 波の上向きと下向きの成分の大きさの差が最も少ないのは III 誘導ですから、おおよその電気軸は +30度。
  6. ST-T
    I、II、aVL と V3~V6 誘導で ST 部分が水平性(horizontal)~下降性(down sloping)に低下しており、T 波の逆転(陰性T波)も認めます。このような形の ST-T 変化を見た場合には、まず狭心症や心筋梗塞などの心筋虚血による心電図変化を念頭に置く必要があります。しかしこの症例のように左室肥大を伴う場合には、肥大による相対的な心筋虚血によって ST-T 変化がくる事も多く、一枚の心電図だけでどちらかの診断を確定することはなかなかできません。ただ、経験的に梗塞に伴う陰性 T 波は左右対称の形になっている事が多いのに対し、今回の心電図の陰性 T 波は、前半の掘れ込んで行く部分に比べて後半の戻ってくる部分が急峻で非対称になっていますから、左室肥大に伴う陰性 T 波の可能性が高いと考えられます。また、この心電図が無症状の健康な被験者の記録であれば、狭心症や心筋梗塞の発作中であるとは考えにくく、その面からも左室肥大に伴う ST-T 変化と考えられます。
    もしこの心電図が、患者さんが胸部症状を訴えている最中の記録であったり、正常の心電図だった人の記録がある日を境に急にこの波形になったのであれば、まず先に狭心症や心筋梗塞(心内膜下心筋梗塞)などの心筋虚血を疑わなければなりません。
  7. QT
    QT 時間の延長はなさそうです。

ということで、今回の心電図の診断は ST-T 変化を伴う左室肥大(心筋虚血?)ということになります。

成人の心電図を読む際、左室肥大の有無は、まず V1 の S 波の深さと V5 の R 波の高さの和(SV1+RV5)が 35mm(3.5mV)以上あるかどうかでチェックしますが、この基準を満たしているだけの場合には実際には肥大がないことも多いため、左室高電位という診断をつけることも多いようです。
しかし、今回の心電図ように明らかな ST-T 変化を伴っている場合には、実際に左室肥大があると考えてほぼ間違いありません。