答え
- リズム
正常の幅のQRS波が、先行するP波を伴って規則正しく打っています。P波はI誘導では陽性ですがII、III、aVFでは陰性です。P波の極性から心房興奮の進んでいる方向は右→左で下→上と類推できますから、右心房の下の方の異所性自動能で動いていると考えられます。このように洞結節以外の心房の自動能で動いている状態を「異所性心房調律」あるいは「上室性異所性調律」と呼びます。中でも今回の心電図のように右心房の下の方の自動能によるものはしばしば見られ、「冠静脈洞調律」とも呼ばれます。心拍数は80/分。 - P
P波はII、III、aVFとV4~V6で陰性で、II誘導でのP波の幅は2目盛(0.08秒)弱です。異所性心房調律のためP波の形のチェックはできませんが、幅が正常範囲内ですから左房負荷はなさそうです。 - PQ
PQ間隔は3目盛半(0.14秒)くらいで房室伝導は正常です。 - QRS
QRS波は、右側胸部誘導(V1、V2)で波形の終りの部分が右脚ブロック様に広がったR’を形成しているように見えますが、その他の誘導では幅が約2目盛(0.08秒)強ですから、R’に見える部分はSTの上昇をみているものと考えられます。
II、III、aVF、V6で見られる小さなQ波は幅も深さも小さいので異常Q波ではありません。胸部誘導でR波はV1<V2、S波はV2→V6へ進むにつれて徐々に浅くなっています。V1のS波の深さとV5のR波の高さの和(SV1+RV5)は11+7=18mm(1.8mV)で、左室肥大もありません。 - Axis
肢誘導でR波とS波の大きさの差が最も少ないのはI誘導ですから、おおよそその電気軸は+90度。 - ST-T
右側胸部誘導(V1V2)でSTの上昇があるようです。このST部分は上に凸の形をしており、急性心筋梗塞の時の波形とは随分雰囲気が違います。このように,右側胸部誘導でSTが上に凸の形で極端な上昇を示し右脚ブロック様に見える波形を見た場合には、「Brugada症候群」という疾患を疑わなければなりません。Brugada症候群はそれ程頻度の高くない疾患ですが、心室細動を起こして突然死する場合がありますから、少なくともこのような心電図をみた場合には病歴の聴取が必要になります。 - QT
QT時間の延長はありません。
ということで、今回の心電図の診断は 異所性心房調律 + Brugada 症候群 ということになります。いかがでしょうか?
異所性心房調律(上室性異所性調律)は健診の心電図などでも時々見かける所見です。ほとんどの場合は治療や精密検査の対象にはなりませんから、気にしてなかったという方もおられるかもしれません。また、Brugada症候群は特殊な疾患ですから、初めて見たという方も多いと思いますが、右側胸部誘導の特徴的な心電図波形は覚えておいて損はないでしょう。特に完全右脚ブロックや急性心筋梗塞の波形との違いをチェックしておきましょう。