答え

  1. リズム
    正常の幅の QRS 波が先行する P 波を伴ってほぼ規則正しく打っています。P 波は I、II、aVF で陽性ですから正常洞調律。心拍数は 75/分弱。I、II、aVR 誘導の波形が少し毛羽立っているのが気になります。毛羽立ちがひどいと P 波や ST が読みにくくなりますから、こういう波形は記録する際に気づいて心電図をとり直さなければなりません。とり直しにあたっては毛羽立ちの原因を取り除く必要があるのですが、何が問題なのか判りますか?
    心電図記録にこのような波形が入る原因としては、交流波の混入、筋電図の混入、電極の接触不良などが考えられます。交流の場合はほぼすべての誘導に(東日本では) 50 回/秒または(西日本では) 60 回/秒の規則正しい毛羽立ちが入りますから、今回の波形とは少し違います。今回のように特定の誘導にだけ毛羽立ちが入っている場合には、筋電図か接触不良ということになるのですが、筋電図の場合にはもう少し大きめで大小不同のある不規則な毛羽立ちが入ります。ということで、この波形は電極の接触不良という診断になり、心電図のとり直しに際しては電極をつけ直す必要があるわけです。 I、II、 aVR 誘導の記録に共通して関与する電極は右手ですから、右手の電極の接触を見直せば毛羽立ちは消えるはずです。もし電極を見直しても波形が改善しない場合には、右手電極へのケーブルが断線しかかっている可能性も考えなければなりません。
    今回の波形のように、心電図に混入した心臓の電気活動以外の人工的な波形は、アーティファクト(artifact)と総称します。
  2. P
    II 誘導は波形が毛羽立っていて見づらいのですが、P 波の幅は 2 目盛半( 0.10秒)とやや幅が広く、V1 の P 波を見ると±の二相性で P 波の後半にハッキリした陰性の部分を認めますから左房負荷と診断します。II 誘導の P 波の高さは約 1 目盛半( 0.15mV )弱ですから右房負荷はありません。
  3. PQ
    PQ 間隔は 4 目盛( 0.16 秒)強ですから房室伝導は正常。
  4. QRS
    QRS 波は幅が約 2 目盛( 0.08 秒)で正常範囲内。aVR 誘導が QS 型のなっている以外は明らかな Q 波(異常 Q 波)を認めません。V1 の波形は心拍によって QS 型に見えるものもありますが、半数の波形にはごく小さなR波があるようです。これは中高年などの肺が膨らんできている人において左房負荷とともによく見られる所見です。胸部誘導で R 波は V1~V3 にかけて徐々に高くなっていて、S 波は V3~V6 に進むにつれて徐々に浅くなっています。V1 の S 波の深さと V5 の R 波の高さの和( SV1 + RV5 )は9 + 18 = 27 ( 2.7mV )ですから左室肥大はありません。
  5. Axis
    肢誘導で QRS 波の上向きと下向きの成分の大きさの差が最も少ないのは aVF 誘導ですから、おおよそその電気軸は ±0 度。
  6. ST-T
    III 誘導で T 波が平坦になっていますが、明らかな ST-T 異常はなさそうです。
  7. QT
    QT 時間の延長はなさそうです。

ということで、今回の心電図は 左房負荷 + アーティファクト(右手電極接触不良) という診断になります。
アーティファクトの原因診断は、心電図の基本が判っていれば決して難しくはありません。今回のような波形は、病棟などで慌てて記録する際にしばしば遭遇しますから、適切に判断してキレイな心電図をとり直すよう心がけたいものです。