答え

  1. リズム
    正常の幅の QRS 波が規則正しく打っていますが先行する P 波がハッキリしません。心室の心拍数は 75/分程度。QRS 波と QRS波の間の基線部分を見ると、II、III、aVFで下向き、V1 で上向きの P 波らしい鋸歯状の波形が 300/分弱の早さで規則正しく出ています。また、これらの波形ほど振幅は大きくありませんが、他の誘導にも基線部分に同じタイミングで 300/分弱の規則正しい揺れがあり、その速さで心房が規則正しく興奮していることがうかがえます。
    このように、心房が高頻度で規則正しく興奮しているために基線部分が鋸歯状になっている心電図は心房粗動と呼ばれ、ほとんどの場合その心房の興奮頻度は 250~300/分となっています。この興奮頻度は房室伝導の限界を超えているため、心房の興奮がそのまま1:1で心室に伝わることはほとんどなく、多くは「2 回に 1 回」から「5 回に 1 回」の割で適当に間引かれて伝わります。この心電図では、キッチリ 4 回に 1 回の割で伝わる状態(4:1伝導)が続いているため、QRS 波も規則正しく打っているように見えるのです。
  2. P
    P 波と言えるものはハッキリしませんが、心房の興奮は 300/分弱の早さで規則正しく出ているようです。この心房の興奮波形は、心房粗動(Atrial Flutter)を表す英語の粗動(Flutter)の頭文字をとって F 波と呼ばれることがあります。
  3. PQ
    ハッキリした P 波がありませんから PQ 時間としてはわかりませんが、V1 の波形でみると直前の心房興奮から QRS の始まりまでは 0.2 秒くらいでしょうか。
  4. QRS
    QRS 波は幅が約 2 目盛(0.08秒)。aVR 誘導以外で明らかな Q 波は認めません。胸部誘導で R 波は V1 ~ V3 にかけて高くなっており、S 波は V3 → V6 へ進むにつれて小さくなっています。V1 のS波の深さと V5 の R 波の高さの和(SV1+RV5)は 14+25=39mm(3.9mV)、aVL の R 波の高さは 3~4mm(0.3~0.4mV)です。教科書的には、V1 の S 波の深さと V5 の R 波の高さの和(SV1+RV5)が 35mm(3.5mV)以上のものを左室肥大と診断します。しかし、所見がこの電位の基準のみを満たしている場合には、実際には左室肥大がないということも少なくありませんから、左室高電位という表現の診断をすることも多いようです。上記の電位の所見に加えて ST-T 変化を伴っている場合や、aVL 誘導の R 波の高さが 10mm(1.0mV) 以上になっている場合には、実際に左室肥大があると考えてほぼ間違いありません。
  5. Axis
    肢誘導で R 波と S 波の大きさの差が最も少ないのは aVL 誘導ですから、おおよその電気軸は +60 度。
  6. ST-T
    ST-T は、高頻度の心房興奮の影響で読めない誘導もありますが、明らかな異常はなさそうです。
  7. QT
    QT 時間の延長もなさそうです。

ということで今回の心電図の診断は 心房粗動+左室肥大(左室高電位) です。  

心房粗動の心電図は、初めて見る人にとっては難しいかもしれませんが、基線に F 波と呼ばれる特徴的な波形が見られますから、一度見れば診断に困ることはないでしょう。今回の心電図のように4:1伝導で心拍数が速くない場合には症状を伴う事は少なく、それほど心配はありません。しかし時に2:1伝導や1:1伝導になり、その場合には心不全やショックを伴うことがありますから救急処置が必要となる場合があります。根治療法としては、慢性期に心房内の粗動回路をカテーテルアブレーションで切ってしまうのが一般的です。