答え

  1. リズム
    幅の広いQRS波が先行するP波を伴わずに規則正しく打っています。心拍数は約53/分あまり。明らかなP波は認めません。QRS幅が広いことから、心室の興奮は正常の刺激伝導系を介さない異常興奮と考えられ、それが規則的に打っているにもかかわらず先行するP波を伴っていないことから、このQRS波は心室の自動能による心拍すなわち心室固有調律と診断します。
    心室の自動能は本来30/分前後からせいぜい40/分程度までで、完全房室ブロックや洞不全などの徐脈性不整脈の際に「心室性補充調律」という形でのみ見られるのですが、自動能が異常に亢進して洞結節の自動能よりも速くなってしまうと「心室頻拍」という形になって現れる事があります。この場合の心拍数は180/分前後が多く、少なくとも100/分以上でないと「心室頻拍」とはいえません。今回の心電図のように本来の自動能より速めに打っていて、頻拍の定義も満たさない(<100/分の)場合には、同じ心室固有調律でも「促進型心室固有調律(Accelerated idioventricular rhythm)」と呼び、「心室性補充調律」や「心室頻拍」と区別します。

  2. 明らかなP波はなさそうです。ただ、II、III、aVF誘導でQRSの立ち上がりから8目盛目付近に、下向きのP波の痕跡を思わせる波形がT波に重なって見られますが、判然としません。もしこれがP波とすると、心室の興奮が房室接合部を逆行して心房に伝わったものと考えられます。
  3. PQ
    QRSに先行するP波がハッキリしませんから測定不能。
  4. QRS
    QRS波は幅が約4目盛(0.16秒)弱で、正常上限の0.10秒を大きく上まわっています。先にも触れたように、QRS幅が広がっている場合には、心室の興奮が正常の刺激伝導系を介さない異常興奮になっていると考えますが、その際QRSの最初が広がっている場合はWPW症候群、後半が広がっている場合は脚ブロック、全体に広がっている場合には心室の自動能による興奮または心室内伝導遅延を疑います。今回の心電図では、興奮が全体に遅くなって幅が広がっているようですから、心室の自動能による興奮(心室固有調律)と診断します。
  5. Axis
    肢誘導でR波とS波の大きさの差が最も少ないのはaVL誘導ですから、おおよそその電気軸は+60度。

ということで今回の心電図は 促進型心室固有調律(Accelerated idioventricular rhythm)という診断になります。
めったに見かけない波形ですが、心電図の読み方の基本さえ判っていれば、診断に困ることはありません。