答え

  1. リズム
    幅の広いQRS波が先行するP波を伴って規則正しく打っています。P波はI、II、aVF誘導で陽性ですから正常洞調律、心拍数は65/分程度です。

  2. II 誘導のP波は幅が2目盛り(0.08秒)あまりあるようですが、途中からQRS波が始まっていてハッキリしません。高さは約2目盛り(0.2mV)弱で正常範囲内です。
  3. PQ間隔は約2目盛り半(0.10秒)と短縮しています。これはP波の終わる前からQRS波が始まっているためです。
  4. QRS
    QRS波は幅が約3目盛(0.12秒)あり、正常(<0.10秒)に比べて広くなっています。I、II、V2~V6誘導のQRS波を見ると、R波の立ち上がりの部分がなだらかになっていて、このためにQRS幅が広くなっているようです。この立ち上がりの部分の波形は「デルタ波」と呼ばれ、PQ時間の短縮と共にWPW症候群に特徴的な波形です。
    WPW症候群では、正常の刺激伝導系を介する房室伝導の他に、Kent束と呼ばれる副伝導路が心房と心室を結んでおり、心房の興奮がこの副伝導路を通って正常の房室伝導よりも先に心室へ降りて行くため、PQ時間が短くなります。またKent束は心室内の刺激伝導系とは繋がっていないため、Kent束から降りてきた興奮により始まった心室興奮はゆっくりとしか広がらず、デルタ波の様になだらかな立ち上がりの波形になってしまうのです。この心室の興奮は、途中から正常の刺激伝導系を介するものに置き換わってしまいますから、QRSの後半は正常に近い形となりますが、デルタ波ができた分QRS幅が広くなるのです。
  5. Axis
    肢誘導でR波とS波の大きさの差が最も少ないのはIII誘導ですから、おおよそその電気軸は+30度です。

今回の心電図はQRS波の幅が正常上限を超えており、心室の異常興奮(正常の刺激伝導系を逸脱した興奮)が起こっていると考えられますから、ST-TやQTの所見は拾っても意味がありません。

ということで、今回の心電図の診断はWPW症候群です。

WPW症候群は発作性上室性頻拍(Paroxysmal supuraventricular tachycardia : PSVT)や突然死をおこす事のある疾患で、典型的な症例の心電図では、今回の波形のようにShort PQ、Wide QRS、Delta wave といった特徴的所見を認めます。この機会に教科書で復習をしておきましょう。臨床の現場では、デルタ波の波形からKent束が心臓のどの辺りにあるのかを類推するのですが・・・わかりますか?
この症例では、I、II、V2~V6誘導で陽性のデルタ波、V1で陰性のデルタ波を認めますから、ケント束は右室前中隔~自由壁辺りにあると考えられます。