『直接訓練にはどのようなものがあるのでしょうか?』
解説:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科高齢者歯科学分野 戸原玄(とはら はるか)
はじめに
直接訓練は食べ物を使う訓練のことを指し、大きく段階的摂食訓練と嚥下代償法にわけられます(表1)。直接訓練の適応はVFなどの検査の結果から、何らかの工夫をすれば安全に食べられると判断された患者のみになります。その“何らかの工夫”が嚥下代償法とよばれるもので、食べ物や食べ方を徐々に上げていくこと、つまり“何らかの工夫”を少しずつ減らしてゆく段階を段階的摂食訓練とよびます。
1.段階的摂食訓練
段階的摂食訓練には特定の方法があるわけではありません。
重症例に対する直接訓練は、多くの場合数種類の代償法を用いながら、ほんの少しずつゼリーを摂取するところから始まります。訓練経過により用いる代償法の種類を減らすこと、食べられるものの一口の量や形態を少しずつアップさせていくことが段階的摂食訓練の概念です。栄養摂取が現実的となるところまで代償法を減らし、食形態をアップすることができれば訓練としてではなく栄養としての経口摂取が可能となります。
2.嚥下代償法
段階的摂食訓練の中で用いる“技”がこの嚥下代償法になります。
1)リクライニング(図1)
誤嚥防止の代償法として最もよく使われるのがリクライニングです。気管が前、食道が後ろにあることから、口から直接気管内に食べ物が入るのを防ぐ目的でリクライニングをさせます。この際、首が伸びて上を向いてしまわないように必ず枕を入れるようにします。なお、個人にあった角度は検査によってきめる必要がありますが、介助を要しないで食べられる角度はだいたい60度以上でしょう。
2)頚部前屈(図2)
頚部の位置を変える嚥下代償法は数多くあります。頚部前屈も誤嚥防止として用いられるもので、最も一般的なもののひとつです。
3)頚部回旋(図3)
食塊の通り方に左右差がある場合に用います。これは、VFなどで検査しないと適応は決めづらいのですが、食べ物ののどへの通りかたに左右差があるときに用います。基本的に患側を向いて嚥下させます。これにより患側の咽頭腔が狭められ、健側のみを食塊が通るようになります。直接訓練開始時点で用いることが多い代償法です。
4)うなずき嚥下
飲み込みに併せて下を向くように努力性に嚥下させる方法です。咽頭残留が多い場合などに試すとよいでしょう。
5)Think Swallow, Effortful Swallow(表2)
think swallowは失調や痴呆などによる嚥下のタイミングのずれが誤嚥につながっている場合、effortful swallowは嚥下後の残留が認められるときに用います。しかし、方法にほとんど違いはなく、嚥下を意識化して力強くのませるのがこの二つの手法です。
6)複数回嚥下・交互嚥下
嚥下後に残留が認められるものの、残留の感覚が乏しい場合に複数回嚥下をするように指示します。反復嚥下とも言います。また、咽頭残留をゼリーにて流し込むなど、異なる食形態のものを用いて咽頭残留を除去する場合は交互嚥下といいます。
7)嚥下後の発声・咳
誤嚥の危険性が高く、さらに不顕性誤嚥が疑われる場合に用います。嚥下後に発声させて湿性嗄声(がらがら声)が認められる場合には咳払いを促します。
まとめ
直接訓練は食べ物を使う訓練ですので、もちろんリスクが伴います。これらをできるだけ安全に行うためには、以前に紹介させていただいたスクリーニングの部分を思い出して、一口ずつスクリーニングしているようなつもりで食べさせるのがポイントです。
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