摂食嚥下リハを進める上でのポイントは?

解説:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科高齢者歯科学分野 戸原玄(とはら はるか)

はじめに
 今回でこの連載も最後になります。全体のまとめとして今まで身につけていただいた知識を、皆様がたがどのように日常に生かしてゆくのかなどのポイントをもう一度考えてみたいと思います。

1.看護師の役割を明確にする
 まず、もう一度ナースの役割を考えてみましょう。これらはそれぞれの診療体系によって異なる部分がありますので、全てを行う必要があるというわけではありません。みなさんの病院で足りていない部分を重点的に行うように考えてみてください(表1)。

摂食・嚥下障害の援助

  まずは、患者さんのピックアップです。これにはまず摂食場面の観察が不可欠です。そしてスクリーニングが有用なツールとなりますので必ず身につけておいてください。次いで、検査の手伝い、検査結果の理解と周知です。いくら情報量の多い有益な検査を行うことができたとしても、それば日常の臨床に生かされていなければ検査を行った意味がありません。必要に応じて専門的な知識をもっている皆様が理解したものを他のナースに周知することは非常に大切です。
 その他、もちろん訓練が必要となりますが、どういった形でみなさんが関わるのかを明確にしておくとやりやすくなるでしょう。例えば、言語聴覚士の先生が専門的に訓練を行っている病院であれば、皆様の訓練に対する役割は、より日常的な意味合いが強くなり、言語聴覚士の先生の指導を患者さんが行っているかのチェックなどが主な役割となります。
 しかし、専門に訓練を行ってくれる人がいない場合には、皆様が専門的な訓練を行う必要があるかもしれません。そのような時は他のナースに日常的なチェックを任せるなど、なるべく手分けして行えるようにすることが継続の秘訣です。また、口腔ケアについても同様で、例えば歯科衛生士が専門的に行ってくれるのであれば、みなさんが口腔ケアに関わる意味合いはメンテナンス的な要素が強くなりますが、そうでない場合には、皆様が中心となって口腔ケアを行える体制を作る必要があると思います。

2.検査が行えないと摂食・嚥下リハはできない?
 摂食嚥下機能検査には、VFやVEがとても利用価値が高いということはご理解いただけたかと思います。しかし、どうしても検査を受けられる環境にない場合もあるでしょう。こういった場合には、短期的な解決策と長期的な解決策の2本立てで考えていく必要があります(表2)。

摂食・嚥下障害の援助

 まず、検査ができないからといって、目の前の患者さんに対応しないわけにはいきません。短期的な解決策としては、評価やスクリーニングの方法を身につけて、それらを駆使しながら対応していくしかありません。ただし、将来的には必ず検査を受けられる環境を作ってゆくべきでしょう。その場合病院内で検査をできるようにするか、誰かに検査に来てもらえるようにするか、近隣の病院などで検査をしてくれるところを探すか、方法はいずれでもかまわないでしょう。最も現実的な方法を考えるのがよいと思います。

3.訓練は何を目標にすればいい?
 訓練を考える場合には患者さんの状態を把握して、ゴールを設定してあげることが大切です。 まず患者さんの状態は大きく7つに分けられます(図1)。

摂食・嚥下障害の援助

  一番下のレベルは常に唾液を誤嚥して呼吸の状態が不安定なレベルです。次のレベルは、常時の唾液誤嚥はないものの、食べる練習が始められないレベルです。その上は食べる練習が開始できるレベルで、そこをクリアすると栄養として口から食べる練習を行うというレベルです。その上は誤嚥の危険があるために食べ物の形態や食べ方を調整するというレベルで、その上は誤嚥以外の理由、つまり歯が悪い、好き嫌いがあるなどを理由として食べ物を調整しているレベルです。その上のレベルは摂食・嚥下障害には含まれません。
 まず、今みている患者さんがどのレベルにいるのかを判断することが大切です。もちろん、一番下の唾液誤嚥レベルは摂食・嚥下リハ的にはゴールにはならず、必ずクリアすることが必要となります。そのレベルを脱した場合、訓練の進行の程度、全身状態、入院可能期間、患者さんやご家族の希望などを総合的に考慮した上でどこをゴールにするのかを考えるようにします。ゴールとしては大目標を意識し、眼前の訓練は小目標を意識しながら設定すると行いやすくなります。ただし、眼前の訓練には、小目標をさらに細かくして設定してあげてもかまいません。乗り越えやすい目標を設定して、乗り越える喜びを患者さんと共有しながら訓練を行うことは、訓練の継続には大切な要素です。

 訓練を行ってみると、思ったような効果が出ないという場面に遭遇することがあるでしょう。しかし、訓練効果を研究的に表現するのは現実的には非常に難しいため、全ての臨床家が苦労しながら行っている部分です。例えば、同じ訓練を数週間行ってもまったく訓練がでないようなときには、他の方法がないか、訓練方法の設定は正しかったのか、訓練自体がただしく行えているだろうかといった目で考えることは必要です。
  このような場合、他職種と相談することで視点を変えてみるのもよいでしょう。自分の今までの経験でも、2~3ヶ月訓練したらようやく効果が出てきたという症例もありましたし、1年半くらいかけて徐々に行うことで唾液誤嚥のレベルだったのが軟菜食を食べられるようになった症例もありました。思ったような訓練効果が得られない場合には、患者さん、家族およびいろいろな関連職種と相談しながら対応を考え直し、場合によってはゴール設定の変更を考えるようにしてください。

おわりに
 12回にわたって連載させていただきました。ADLが低下した場合にも“食べる”という機能は最後まで残ると考えられています。最後に残った機能を安全にサポートすることで患者さんが助かるのはもちろん、周囲のご家族には大きな安心が得られます。リハビリテーションは他人の生活に入り込んでこそ成功する医療です。
  みなさんが患者さんの生活にたやすく入り込めるための方法やツールなどを引き続き紹介できるように今後も尽力したいと考えています。長い間お付き合いありがとうございました。

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