答え

  1. リズム
    幅の狭いQRS波が先行するP波を伴って1拍出た後、2拍目からは幅の広いQRS波が先行するP波を伴わずにほぼ規則正しく速く打っていますから、心室頻拍が疑われます。しかし、この頻拍部分の心拍数は120~150/分程度と多少の変動があり、RR間隔にバラつきを認めますから、心房細動も念頭に置く必要があります。これを鑑別するために心電図をよく見ると、図のようにP波が隠れていて、QRSとは無関係に約60/分ほどの速さで心房が規則正しく打っているのが判ります。このことから、この頻拍は心房細動ではなく、心室頻拍と診断します。


  2. P
    II誘導で1拍目のP波の幅は約2目盛(0.08秒)、高さは約1目盛半(0.15mV)で、何れも正常範囲内ですから、左房負荷や右房負荷はありません。
  3. PQ
    1拍目で見るとPQ間隔は3目盛半(0.14秒)ですから房室伝導は正常。それ以降の波形はQRS波がP波とは無関係に速く打っているので読めません。
  4. QRS
    1拍目のQRS波は幅が2目盛(0.08秒)あまり。IIIとaVFで小さなQ波を認めますが、異常Q波ではありません。
    2拍目以降は、QRSの幅が約3目盛(0.12秒)と広くなっていて、先行するP波を伴わず速く打っていますから、リズムのところで説明したとおり、心室頻拍と診断します。
  5. Axis
    肢誘導の1拍目のQRS波で、上向きと下向きの成分の大きさの差が最も少ないのはIII誘導ですから、おおよその電気軸は+30度です。それ以降の波形ではaVL誘導が上下の成分の差が最も少ない誘導ですから、この部分での電気軸は+60度です。
  6. ST-T
    1拍目の波形では明らかなST-T異常はありません。幅広のQRS波についてはST-Tを読むことはできません。
  7. 1拍目の波形ではQT時間の延長もなさそうです。

    ということで、今回の心電図は 心室頻拍 という診断になります。

    「幅の広いQRS波の頻拍」を見た場合には、まず心室頻拍を疑わなければなりません。しかし今回の心電図のように、頻拍の起こり始めにはRR間隔が不安定で心拍数が変動していることがあって、短い記録の心電図では心房細動との鑑別に迷うことがあります。迷った時には、どこかにP波が隠れていないかを探す必要があるのですが、これについては、たくさんの心電図を見て経験を積むしかありません。P波を探すのに着目するポイントは2つで、ひとつは今回のようにP波がQRSとは無関係にゆっくり規則正しく打っていないか(房室解離の状態)、もうひとつはQRS波直後の一定の位置に逆行性のP波(室→房伝導)がないかです。ちなみに後者の波形は第26回の心電図で見られます。