答え

  1. リズム
    幅の広い QRS 波が先行する P 波を伴って規則正しく打っているようですが、1 拍目と 5 拍目および 8 拍目の後の部分で RR 間隔が間延びしています。 RR 間隔が開いている部分では、P 波だけが出ていてそれに対応する QRS 波が脱落しています。よく見ると 1 心拍ごとに PQ 間隔が徐々に延長して行き、PQ が長くなった後で QRS 波が脱落しているようです。
    この心電図のように、P 波に対応する QRS 波が時々脱落しているものを 2 度房室ブロックと診断します。 2 度の房室ブロックの中でも、今回のように PQ 間隔が 1 心拍ごとに徐々に延長して QRS 波が脱落するものは、2 度 type1 房室ブロックまたは 2 度 Wenkebach(ヴェンケバッハ)型房室ブロックと呼びます。
    P 波は I、II、aVF で陽性ですから基本調律は正常洞調律。QRS 波が規則正しく出ている部分の心拍数は 80/ 分くらいです。
  2. P
    II 誘導の P 波は幅が 2 目盛半( 0.10 秒)あまりと、少し広くなっています。II 誘導で P 波の幅が広くなっている場合には左房負荷を疑い、V1 誘導の P 波の形をチェックします。V1 の P 波を見ると±の二相性を呈しており、P 波の後半にハッキリした陰性の部分を認めます。心電図ではこの所見がある事で左房負荷と診断します。 II 誘導の P 波の高さは約 2 目盛( 0.2mV )で正常範囲内ですから右房負荷はありません。
  3. PQ
    2 度 type1 房室ブロックですから PQ 間隔は 1 心拍ごとに徐々に長くなっていて、4 目盛半( 0.18 秒)~ 7 目盛( 0.28 秒)です。一部では P 波だけが出ていてそれに続く QRS 波がありません。
  4. QRS
    QRS 波は幅が 3 目盛半( 0.14 秒)とかなり長くなっていて、心室の興奮に時間がかかっている(異常興奮)と考えられます。そこで V1 の QRS 波をみると rR´ パターンを呈しており、この R´ のために QRS 幅が広くなっているのがわかります。この幅の広いR´ は V1 の電極に近づいてくる右室のゆっくりした興奮を意味しますから、完全右脚ブロックと診断します。肢誘導の QRS 波もその後半で幅が広くなっていて、右室の興奮が遅れた影響をうけているものと考えられます。aVR 誘導以外では、I と aVL でごく小さな Q 波を認める程度で、明らかな異常 Q 波はありません。V5 の R 波の高さは 15 ~ 17mm ( 1.5 ~ 1.7mV )で正常範囲内ですから左室肥大もなさそうです。
  5. Axis
    肢誘導の QRS 波で、上向きと下向きの成分の大きさの差が最も少ないのは II 誘導で、マイナスの成分がやや大きめですから、おおよその電気軸は- 30 度よりやや左ということで左軸偏位と診断します。

ということで、今回の心電図の診断は 2 度 type1 ( Wenkebach 型)房室ブロック + 左房負荷 + 完全右脚ブロック + 左軸偏位 ということになります。

すべての所見を正しく拾う事ができましたか? 2 度房室ブロックや完全右脚ブロックなどの派手な所見があると、他の所見を読み落としてしまうことがありますから注意が必要です。