答え

  1. リズム
    幅の広い QRS 波が先行する P 波を伴ってほぼ規則正しく打っています。P 波は I、II、aVF で陽性ですから正常洞調律です。心拍数は約 90/ 分。
    8 拍目の QRS 波が少し早いタイミングで出ており、期外収縮と考えられます。この QRS 波に先行する P 波はハッキリしませんが、他の QRS 波と形が同じことから上室性期外収縮と診断します。
  2. P
    II 誘導の P 波は幅が 2 目盛半( 0.10 秒)あまりと広めで、V1 誘導の P 波でその後半にハッキリした陰性の部分を認めますから、左房負荷、また、II 誘導の P 波の高さは約 3 目盛( 0.3mV )あまりと高く、右房負荷もあるようですから、左右両方の心房負荷と診断します。
  3. PQ
    PQ 時間は約 5 目盛半( 0.22 秒)くらいで正常の上限をわずかに超えていますから、1 度房室ブロックが疑われます。
  4. QRS
    QRS 波は幅が約 3 目盛( 0.12 秒)あまりと正常の上限( 0.10 秒)を超えて広くなっており、また V1 ~ V4 や I、aVL の波形をよくみると、その直前にスパイク状の波形を伴っていることから、心室ペーシングによる心室興奮であることがわかります。また、ペーシングされた QRS 波とそれに先行する P 波とが一定の PQ 間隔で出現している事から、ペースメーカーが正常洞調律の心房興奮を検出してそれに同期した心室ペーシング(心房同期心室ペーシング)を行っていると考えられます。この場合、心房の興奮を検出してから心室をペーシングするまでの時間( AV delay )はペースメーカーでプログラムできるはずですから、前項で指摘した PQ 時間の延長は房室ブロックによるものではないと判断します。
    ペーシングされた QRS 波は II、III、aVF で QS 型となっていることから、心室の興奮は下から上へ向かっていると考えられますが、右側胸部誘導( V1 ~ 2 )で上向きの右脚ブロック型の波形を呈している事から、通常(右室から)のペーシングとは異なり左室ペーシングが行われているものと推察できます。
    心室ペーシングのため、この波形から左室肥大や右室肥大の有無は読めません。
  5. Axis
    肢誘導の QRS 波で、上向きと下向きの成分の大きさの差が最も少ないのは I 誘導で、II、III、aVF の QRS が下向きですから、おおよその電気軸は-90 度です。

ということで、今回の心電図は 左室ペーシング(心房同期心室ペーシング)+ 上室性期外収縮 + 左右両心房負荷 という診断になります。

通常、心室ペーシングの電極は右心室に留置して右室側からペーシングを行います。そのため、心室ペーシングの心電図波形は右側胸部誘導( V1 ~ 2 )で左脚ブロック型になるはずです。しかし今回の心電図では、心室ペーシングされた波形が右脚ブロック型を呈していることから、左室側からペーシングされているという事に気づかなければなりません。

近年、心不全の特殊な治療法として両心室ペーシングや左室ペーシングが行われるようになっています。今回の心電図には両心房負荷の所見もある事から、恐らく心不全に対する左室ペーシングが行われているものと考えられます。