答え

  1. リズム
    幅の広い QRS 波が先行する P 波を伴ってほぼ規則正しく打っています。P 波は I、II、aVF で陽性ですから正常洞調律と考えられます。心拍数は約 68/分。
    I、II、aVR 誘導の波形が少し毛羽立っていますが、これは恐らく右手の電極の接触不良によるアーティファクトと考えられます。この程度のアーティファクトであれば診断の支障にはなりませんが、できれば記録する際にその場で電極の接触を再確認してとり直した方が良いでしょう。
  2. P
    II 誘導の P 波は幅が約 2 目盛( 0.08 秒)強、高さは約 2 目盛( 0.20mV )弱ですから、左房負荷や右房負荷はありません。
  3. PQ
    PQ 間隔は約 4 目盛半( 0.18 秒)で房室伝導は正常。
  4. QRS
    QRS 波は幅が約 4 目盛( 0.16 秒)と正常の上限( 0.10 秒)を超えて広くなっており、その直前に大きなスパイク状の波形を伴っていることから、心室ペーシングによる心室興奮と考えられます。通常心室ペーシングは右心室で行いますから、QRS 波は右側胸部誘導で左脚ブロック型となり V1~V4 で QS 型を呈しています。また II、III、aVF で QS 型になっていて、右室心尖部からのペーシングである事がわかります。
    さらにこの心電図では、ペーシングされた QRS 波とそれに先行する P 波とが一定のPQ 間隔で出現している事から、ペースメーカーが正常洞調律の心房興奮を検出してそれに同期した心室ペーシングを行っているもの(心房同期心室ペーシング)と考えられます。
    心室ペーシングのため、この波形から左室肥大や右室肥大の有無は読めません。
  5. Axis
    肢誘導で QRS 波の上向きと下向きの成分の大きさの差が最も少ないのは I 誘導と aVR 誘導ですから、おおよそその電気軸は-75度。
    心室ペーシングなので電気軸の値に診断的意義はありませんが、万一心室の中でペーシング電極が動いてしまうと電気軸が変わりますから、元々どれくらいの電気軸だったかを記録しておくと役立ちます。

今回の心電図も QRS 幅が正常の正常上限を超えていることから心室の興奮が異常(正常の刺激伝導系を逸脱した興奮)と判断できますので、原則として ST-T や QT に関しては所見を拾っても意味がありません。

ということで、今回の心電図は 正常洞調律 + 心室ペーシング (心房同期心室ペーシング) という診断になります。
ペーシングリズムの心電図の診断は、ペーシングスパイクにさえ気がつけば難しくありません。この心電図では、自脈の心房興奮をペースメーカーが検出して、それに同期した心室ペーシングが行われていますから、DDDまたはVDDと呼ばれるタイプのペースメーカーが入っているものと考えられます。