答え

  1. リズム
    正常の幅のQRS波が先行するP波を伴って規則正しく打っています。P波はI、II、aVFで陽性ですから正常洞調律。心拍数は83/分です。

  2. P波はII 誘導で幅が2目盛り半(0.10秒)強とやや幅広、V1誘導でP波の後半にしっかりした陰性の部分がありますから左房負荷と診断します。II 誘導でのP波の高さは約1目盛り(0.1mV)ですから、右房負荷はありません。
  3. PQ
    PQ間隔は約4目盛半(0.18秒)ですから房室伝導は正常。
  4. QRS
    QRS波は幅が約2目盛(0.08秒)で正常範囲内ですが、V1~V3で明らかなR波がなくQS型になっています。このように本来R波があるはずの誘導でQS型波形を認めた場合には「異常Q波」と判断し、貫壁性の心筋梗塞の存在を疑わなければなりません。この心電図ではV1~V3に異常Q波を認めることから前壁中隔の心筋梗塞と診断します。
    V1のS波の深さとV5のR波の高さの和(SV1+RV5)は9+21=30mm(3.0mV)ですから左室肥大はありません。
  5. Axis
    肢誘導でR波とS波の大きさの差が最も少ないのはIII とaVL誘導ですから、おおよそその電気軸は+45度です。
  6. ST-T
    明らかなST異常はなさそうです。T波はaVR・aVL・V1で陰性ですが、aVRでは陰性が通常で、V1でも正常でしばしば陰性になることがありますから問題ありません。 また、aVLのT波も時々陰性になることがありますから、単独所見であれば病的所見とはとりません。ただしI とaVLで同時に陰性T波を認めた場合には、側壁の心内膜下虚血や非貫壁性梗塞を疑わなければなりません。
  7. QT
    明らかなQT延長はありません。

ということで今回の波形は 左房負荷 + 心筋梗塞 という診断になります。
V1~V3のQS型(異常Q波)にさえ気がつけば診断は難しくありません。Q波のある誘導だけから類推すると梗塞範囲はそれ程広くないように思われますが、左房負荷の所見を伴っていることから、心機能低下による心不全の存在が疑われる心電図です。